何もかもが信じられなくなりました。離婚届も用意しました。でも幼子を一人で育てる自信もなかったので、結果として彼と同じ手法をとることにしました。「大したことじゃない。彼は善人で、自分は幸せなのだ」というストーリーに全てを練りこんで、いいところだけを見ることにしたのです。次男を出産した後に不安障害になったのも、生育家族との関係をカウンセリングで吐き出したことだけが原因だと思うことにしました。カウンセラーの女性は「男の人の性欲は女にはわからないから考えるのをやめましょう」と言いました。今思えば生育家族との問題に加えて夫婦の問題を抱えることになった私が潰れてしまわないように、新しい問題を一時的に封印してくれたのだと思います。その封印は実によく機能して、私は家族の問題の方に集中してカウンセリングを受けることができました。家族との問題が整理されるにつれて長年の重荷から解放され、辛抱強く寄り添ってくれていた夫にも深く感謝したのですが、よくよく考えてみれば彼はあのときも「よくなるよ」と繰り返してそばにいてくれただけでした。

「よくなるよ」と信じてただ相手の話に耳を傾け、そばにいることはとても大切です。受容される経験に乏しくしんどさを抱えた人間に対して、「不完全なあなたはそのままそこにいていい」と言うことですから。夫は不安障害になった私を見て、自分が原因ではないかと恐れを感じたのかもしれません(せめてそうであって欲しいです)。私が不安障害に苦しんでいる間、彼は自分がしたことは一切話題にしませんでした。私が過去に両親や姉との間に抱いた蟠りを吐き出すのをひたすら聞き続けました。やがてだんだんと、私は落ち着いていきました。家族と夫婦の二つの問題に直面して崩壊しかけていた自分を立て直すには、カウンセラーと夫が期せずして同時に選択した「新しい方の問題を見ないことにする」という緊急避難的な手法が有効だったのです。

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