日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介するこの企画。2013年のオープンから醤油にこだわり続け、業界最高権威といわれる「TRYラーメン大賞」に毎年掲載されている「中華そば しば田」。その店主が愛する一杯は、否定されても自分の味を貫いた埼玉県郊外の店主が作る醤油ラーメンだった。
【極上!】休日は600人が並ぶ埼玉郊外の醤油ラーメンはこちら(全8枚)
■ジジイになっても厨房に立ちたい 多店舗展開に踏み切らない理由
ラーメンの主役が麺なのかスープなのかという論議があるが、仙川の「中華そば しば田」の店主・柴田貴史さん(36)に言わせれば、そのどちらでもなく主役は“醤油”だという。
あくまでも醤油がきっちり立つかどうかが重要で、そこにスープや麺を合わせている。「ラーメンといえば醤油」「スープが旨すぎてもダメ」と言い切るほどにこだわっているので、今や「醤油といえばしば田」という存在になった。
京王線仙川駅から10分以上歩いた住宅街にありながら、平日は200人、土曜は250人のお客さんが集まる人気店だ。天然素材のみを使っているので毎日素材の状態が変わるが、味にブレを出さないように数種をブレンドして、毎日細かな調整を加えながら作っている。その地道な積み重ねが評価され、TRYラーメン大賞にも掲載され続けてきた。
近年ではミシュランガイドに掲載されるなど、世界におけるラーメンの地位も確実に上がってきている。受賞をきっかけに、多店舗展開や海外進出に乗り出すお店も多い。そんな動きもあって、今まで見たことのないような新しいラーメンもたくさん出てきている。
だが、柴田さんは奇をてらわない「The ラーメン」にこだわり続ける。周りが変化する中でも、余計なものは一切入れず、見た目も落ち着いた佇まい。丼も昔懐かしい、赤い雷紋模様だ。
「ラーメンは嫌でも愛される国民食です。どれだけ評価されても、初心を忘れずにいたい。世界に評価されて、ラーメン自体が変わっていくことを悪いことだとは思いませんが、自分のラーメンはこのスタイルのまま突っ走りたいんです」(柴田さん)
従業員を育て、多店舗展開をして経営者になる店主もいるが、「生涯ラーメン職人でありたい」と柴田さんは言う。
「ジジイになっても厨房に立っていたい。そのためにも無理はせず、休む時は休んでマイペースに続けていきたいですね。四六時中ラーメンのことを考えているのではなく、頭の中からラーメンを抜く時は抜く。長距離マラソンを走っている感じですね」
レシピにもそのスタンスが現れている。自家製麺を試したいという目標はあるが、今は無理だときっぱり言い切る。情熱だけではやっていけない。できる範囲でベストを尽くす。それが柴田さんスタイルだ。その中で絞り込んだ“醤油”という一つの食材を極め、頂点に上り詰めたのだからすごい。
醤油にこだわる店主が愛するラーメンは、埼玉県の郊外で極上の一杯を作り続ける孤高の職人が営むお店だった。