「スープが切れたとき、一番怒ったのは父でした。お客さんが来てくれる限りきちんと提供しろ! と。遠方からもたくさん来てくれるので、食材面も接客面もとにかく頑張りましたね。お客さんをがっかりさせないように、それだけでした」(岩本さん)
「四つ葉」のラーメンは日々変わり続けている。筆者が初めて食べた14年は、醤油の程よい甘みがあり、芳醇な印象を受けた。だが、今回食べると、鶏の味がぎゅっと詰まっていて、より洗練されている。記憶にある「四つ葉」を超える味に、驚いた。
都内の激戦区で競争を強いられているわけでもなく、お客さんがいないわけでもない。このまま同じラーメンを提供し続けていてもいいのに、日々モデルチェンジしているのだ。進化し続けるためのモチベーションはどこにあるのか。
「こんな場所にあるからこそ、美味しいものを出さなければダメです。気軽に何度も来られる場所ではないので、1回来たお客さんが次に来たとき、さらに喜んでもらえるものにしたいと。危機感は常にあります」(岩本さん)
地元・埼玉の食材にもしっかり目を向けている。母校の小学校の裏に蔵を構える「笛木醤油」や、岩本さんのかつてのバイト先を営む「松本醤油」は埼玉を代表する醤油の蔵元だ。さらに、上に添えられる三つ葉も埼玉産のものを使っている。実家を継ぎ、地元密着も意識しながら、全国でも戦える味に仕上げる。こんなラーメン店は、実はなかなかない。岩本さんだからこそなしえたことであろう。1日30人を目標に掲げていたが、今や平日は400人、週末には600人集まることもある大人気店に成長した。
「しば田」の柴田さんは、同じ醤油を扱う職人として、岩本さんを尊敬しているという。
「何よりも人格者ですし、背中で語る職人で、黙々と味をブラッシュアップし続けています。ラーメンに対しても真面目で、中身の詰まった人。地元にもしっかり貢献していて、本当にすごいです」(柴田さん)
岩本さんも「しば田」のラーメンの隠れた大ファンだ。
「好奇心が旺盛で、ストイックに醤油の旨さを追求している。食べるたびに感動を覚えます。柴田さんは自分がイメージしたラーメンから全くブレない。味も昔ながらの雰囲気を持ちながらも、洗練されている。あのこぼれそうなスープを想像しただけでも、また食べたくなります。いつも、2杯食べてしまうんですよ」(岩本さん)
世間にどう評価されようと、自分の求めた味から絶対にブレない二人。前回紹介した「トイ・ボックス」とともに、13年オープンのこの2店は、切磋琢磨しながらラーメン界のトップを走り続けている。(ラーメンライター・井手隊長)
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