「実測生存率だと、I期では年齢の影響を受けやすいと言われますが、上位の病院では、ほぼどこもI期からIII期まで平均的に良い成績を示しています。これは、手術症例に対して、リンパ節郭清も含めた正確な手術をしている結果と考えられます」(渡辺医師)
リンパ節はしっかり郭清すればするほど転移が見つかる。術前はI期だと思っていても、手術後の病理検査でII期、III期と判明することが肺がんでは多い。
「リンパ節を取り切らずにI期と判定するとその後の治療も不適切になり、成績は悪くなるでしょう。手術の内容、特にしっかりとしたリンパ節郭清をおこなっているかは予後に大きく関わります」(同)
肺葉切除か区域切除かなど、手術で取る範囲を正確に診断し適応しているかも生存率に関係してくると渡辺医師は説明する。
09年当時手術数4位の大阪国際がんセンター(旧大阪府立成人病センター)副院長の東山聖彦医師はこう話す。
「成績の違いは、肺がんという病気を熟知してきちんと評価してがんを切除しているかどうかの差だと思います。肺がん治療は診断と治療がしっかりリンクしてはじめて根治的な治療ができるので、『病院の総合力』が問われます」
たとえば高齢者のI期の場合、放射線治療を選択するケースが増えているため、I期の5年生存率は手術の力だけではなく放射線治療の実力が含まれており、今後ますますその傾向になると、東山医師は指摘する。
肺がんでは薬物療法と放射線療法を組み合わせる化学放射線療法も重要だ。III期の局所進行がんでは、この化学放射線療法が治療成績に関わっている。
■空欄の病院には“完全鏡視下”手術派が多い
では、IV期の評価についてはどうだろう。
「同じIV期でも、全身転移の状態のIV期と胸膜播種(はしゅ)や少し広がりがある状態のIV期では予後が違います。後者の場合、外科手術で貢献できる症例もあり、5年生存率によい影響を与えます。一概に評価はできませんが、5年生存率が高いということはその病院の外科の実力が反映されていると思います」(渡辺医師)
全身転移のIV期は、内科治療の領域で、生存率にばらつきはそれほど出ないはずだという。
今回、肺がんでは、30位までで空欄だった病院11のうち、7病院はがん診療連携拠点病院だが非公表だった。気になる点は、空欄の病院のなかには胸腔鏡だけに頼ったいわゆる“完全鏡視下”手術派の病院が多いことだ。表には手術数の内訳として胸腔鏡手術の件数も併記している。
一時期、肺がん手術では、傷が小さく低侵襲であるメリットが強調され胸腔鏡手術に取り組む病院が増えた。肝心の根治性は長期成績を見なければ評価できず、本来開胸でおこなうべき難しい症例を傷の大きさにこだわり無理に完全鏡視下でおこなえば、がんを取り残し再発する恐れが指摘されていた。
◯国立がん研究センター中央病院呼吸器外科科長
渡辺俊一医師
◯大阪国際がんセンター副院長
東山聖彦医師
(文/伊波達也、杉村 健)
※週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2019」から