書籍『孤独の台所』
書籍『孤独の台所』

「大したもんだよ。でも……」

 そして、うま味調味料や甘味もけっこう使われているから、煮込んでいるだけで自然と鍋にいい味が出てきます。酒やみりんを使わなくてもいいんです。そこに牡蠣のうま味と白だしを重ねてしまえば、至高の一品になるのは当たり前のことなのです。

 食べてもらえれば一発で理解できますが、この出汁の味なら、面倒な下茹でをしなくても大根の匂いなんてまったく気になりません。もし、かなり繊細な出汁を取って煮込んでいくのなら、匂いが気になることもある。でも、これだけうま味を重ねてしまったら問題ないんですよ。

 このおでんには、みんなめちゃくちゃ喜んでいました。「どこよりもおいしいね」「えっ、オイスターソースでこんなにおいしくなるの?」という声ばかり。

 さらに運がいいことに、最初に食べてくれた5人のなかに、施設の大将キャラのおじいさんがいたんです。

 「これはうまいな。ここまでできるのは大したもんだよ。でも、こんなにうまいのに5人じゃなあ。次からはちょっと呼んできてやるよ」と言ってくれたんです。

 そして第2回には30人くらいに参加者が増えちゃって、大変になりました。

 それから毎月2回の定例会を3、4年続けて、最終的に1回の参加者は50人くらいに増えていきます。

(リュウジ・著『孤独の台所』では、施設で振る舞ってきた料理がSNSで「バズ」を起こすまでの経緯や、自身のレシピが人気を得る理由について、自ら考察している)

孤独の台所
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