料理研究家のリュウジ氏(撮影/写真映像部・松永卓也)
料理研究家のリュウジ氏(撮影/写真映像部・松永卓也)
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 かつてはうま味調味料を使うレストランを「三流」とまで思っていた、料理研究家のリュウジ氏。現在、「味の素」を活用したレシピで人気を得ているが、なにが転機になったのか。自身の料理哲学を語った最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けする。

【写真多数】動画とは違う表情を見せるリュウジさん

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 それまで俺は、うま味調味料の完全な否定派でした。イタリアンではまず使う必要もない。現に有名な店はほとんど使っていません。

 ですが、俺が入ったこの店は、一歩台所に入るとうま味調味料をバンバン使っていたんです。ほぼ全メニューに使っていました。素材の味で勝負するのがイタリアンだと思っていたのに、全然違う。

 イルキャンティの大人気メニューに「真夜中のスパゲティ」があります。

 普通のトマトソースより汁気が多く、ニンニクががっつり効いたパスタです。

 俺も再現レシピを公開しているけど、これがめちゃくちゃうまいんですよ。店でまかないとして作ったときに、仕上げにオリーブオイルをひと回しする代わりにガーリックバターを落とすというアレンジをしたら、バイトの子たちにも好評でした。

「実態は三流店だったのか」

 このパスタを発明した人はとんでもない天才だと思うんですけど、この味を支えているのは「コンソメ」なんです。丁寧に煮込んだスープを合わせて作っているのかなと思いきや、粉のチキンコンソメを大量に使っているんですよ。

 ここは人気店だけど、実態は三流店だったのか。とんでもないところに来てしまった──。

 この事実を知ったとき、俺はそう感じました。

 今思えば大馬鹿です。

 間違いなくイルキャンティは一流の店で、俺の発想のほうが三流だったのです。

 お客さんたちは、この店の味を圧倒的に支持しています。毎日たくさんやってきて、チキンコンソメがバンバン入っているパスタをうまい、うまいと食べて満足している。

 そして、ザーッと音がするくらいうま味調味料が入っているドレッシングを買って帰っている。実際に食べてみると、あれだけうま味調味料の否定派だった俺でも、うまいことは間違いないと思えるのです。

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