料理研究家のリュウジ氏(撮影/写真映像部・松永卓也)
料理研究家のリュウジ氏(撮影/写真映像部・松永卓也)
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 実家全焼、世界一周と大きな体験を経て、ネットカフェ店員として働いていたリュウジ氏。その後、勤めたホテルの仕事で、社会の理不尽を経験したという。料理と仕事の信念を語りつくした最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けする。

【写真多数】動画とは違う表情を見せるリュウジさん

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 それで配属されたのが宴会担当。これがまあ本当に忙しかったし、いい社会経験になりました。

 休みは平日に取るのが基本の職場です。土日はイベントラッシュで忙殺されていました。結婚式が何件入ったという話があったと思ったら、同時に企業や政治家のパーティーも立て続けで、目がまわるくらい忙しい。

 朝8時に出勤して、昼から夜まで宴会を仕切って、帰るのは日付が変わるか変わらないかくらいのころ。基本給に加えてかなりの残業代が入って、手取りは20万円ぐらいもらえました。ネットカフェのバイトは11万円だったから、ほぼ倍増です。「俺、めっちゃ稼いでる」という感覚を味わえましたね。

結婚式の失敗で「さすがに自分を責めた」

 忙しかったから失敗もしました。特に結婚式は多くの人にとって一生に一度のことだから、こちらの失敗のプレッシャーも大きかった。

 たとえば余興で親族や友人がフォトムービーを持ってきたら、タイミングを合わせて流すだけでなく、音響もホテル側がコントロールします。タイミング通りに流れなかったら当然クレームが入るし、映像は流れているのに音が出ていないなどということになったら最低の扱いを受けます。

 結婚式は人生の節目に行う数百万円の宴会だから、失敗したら新郎新婦が悲しむのは当然です。俺もとある結婚式でそんな失敗をしたことがあったけど、さすがにそのときは自分を責めました。ネットカフェでしか社会人経験がなかった俺は、最初はその責任の重さを自覚していなかったんです。

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