「典型的なサラリーマン」だった

 自分の身の回りのことで失敗しただけなら、それは単に自分で失敗を取り返せばいい。でも、他人の式での失敗は二度と挽回がきかない。

 自分が失敗したら新郎新婦のメンツを潰すことになるし、新生活の門出を傷つけてしまって縁起も悪い。俺ひとりが謝って済む問題でもなく、偉い人もみんなやってきて、総出で謝ることになります。

 最初はその失敗のプレッシャーが嫌だったけど、数をこなせば慣れてきて、それなりに毎日楽しく過ごしていました。典型的なサラリーマンでしたね。

 しかし、そろそろ主任待遇の正社員になれそうというタイミングで、辞めることになります。ホテルの経営が立ち行かなくなったというのが大きな理由です。東日本大震災の影響で、ホテルの売上を支えていた中国人観光客が激減してしまって、キャッシュが回らなくなってきたんです。

 ただそれがなくても、俺はこの仕事を辞めていたと思う。

 理由は2つです。1つは信じられないクレームがあったこと。もう1つは、4年間勤めたなかでたった1回、土日に休みを取ったことを責められたことです。

理不尽すぎる職場で……

 信じられないクレームというのは、地元のとある大学の剣道部OB会から寄せられたものです。

 毎年恒例のOB会がホテルで催されていたのですが、体育会ということもあってかなりの量のビールを飲むんですね。

 その対策で、現役生の幹事から「ビールが予算を超える本数まで行ったら教えてください」と最初に要請がありました。俺は出すビールの上限を決めて、「これ以上注文があっても出さなくていいから」とスタッフに周知して仕切っていました。

 しかしOBたちはそんな予算の事情は知らないから、ビールをバンバン飲むわけです。上限の本数に達しても、追加しろと注文がかかる。

 俺の一存で出すわけにはいかないから、幹事に「ビール追加しますか?」と念のために確認しました。すると幹事は、やはり「追加しないでください」と言います。

 なので俺は、OBの追加注文に対して「すみません、出せないんです」と断りました。しかし酔っ払ったOBたちは「酒出せよ」と怒ります。

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