
「切っていい」ルールを作ったが…
執拗に暴言を繰り返す男性の行為は「犯罪」との認識を深めた首都高。有識者や社員の意見を聞き、電話を「切っていい」新たなルールを作った。
運用から2年で、実際に「切電」した事案はわずか34件。導入後の100万件を超す電話の総数からすれば、極めて少ない。だが、恩田さんによると、「切っていいルールがあることで安心ができる。より集中して対応できる」などとオペレーターからの評判は上々だという。
また、利用客から強い言葉が出た際、オペレーターが対応できなくなる可能性を伝えると、口調がとたんに落ち着いて「切電」にいたらなかったケースも少なくないそうだ。火に油、となってしまう可能性も想定していたが、カスハラをすんでのところで抑える、思わぬ効果があったようだ。
利用客対応の窓口としては異例かもしれない電話を「切ってもいい」マニュアル。自治体などからの問い合わせが続いているという。
切電の少なさが示すこと
ただ、恩田さんは手ごたえを感じつつも、「切電」という言葉が独り歩きすることへの懸念も口にする。
それは、カスハラ行為が悪なのであって、クレーム=悪ではないという点だ。首都高は経営理念として「お客様第一」を掲げており、正当なクレームや意見は、サービス改善への「宝の山」だという姿勢は変わらないという。社長を含む役員・社員全員に、寄せられた意見が共有される仕組みを作っており、実際に意見をもとに改善に結びついた事例も少なくない。
「切電の少なさが示すように、クレームを言われたら切るということではまったくありません。だからこそ、落ち着いて伝えていただきたいと思います」(恩田さん)
「お客様第一」であって「お客様は神様」ではない。相手が弱い立場だから何を言っても電話を切らないだろうという勝手な思い込みは、通用しない時代が来ているのだ。
(ライター 國府田英之)
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