電話に対応するオペレーター(首都高お客様センター提供)

▽回答内容に問題はないのに30分以上同じ内容の主張を繰り返す

▽不当な要求(「社長を出せ」など)

▽威圧的な発言・口調(「バカ野郎」など)

の3項目いずれかに該当した場合、理由を伝えたうえで電話を切っていいことを定めた。

「怒り」を見える化

 さらに、通話内容がほぼ同時に文字化される「音声認識システム」を導入した。暴言や、電話が10分以上続いた場合にアラートが出る仕組みだ。利用客が何を言ってきたか、どのようなやり取りをきっかけに怒り出したかを「見える化」し、オペレーターと上長が状況を共有できるようになった。

「切電」導入のきっかけは2012年ごろから長く続いた、ある男性からのカスハラ電話だった。

「苦しまされ続けた過去がありました」と恩田さんも率直な思いを口にする。

 その当事者とのやり取りの録音を聞かせてもらうと、工事渋滞の予測が外れたと怒り狂い、オペレーターを恫喝する声が響いた。

2時間を超えて日付をまたぐ暴言

《誰が責任取るんだよおっ! おいっ! 実際に迷惑こうむるのは我々なんだぞ。ようっ!》

 電話は一日に3~4回、連日のようにかけてくる時期もあれば、一か月くらい音沙汰がなくなり、また急にしつこい電話が始まるという状況が続いた。

 さらに2019年ごろからは、発言の内容がエスカレート。2時間を超えて日付をまたぐこともあった。

《腹切るんなら首跳ねに行ってやる! 首くくるなら足引っ張りに行ってやるよ。え! ビルから飛び降りるなら背中押して、脱いだ靴を揃えるくらいしてやるよ!》

 連日連夜、電話に対応し続けた社員が、上司に相談して問題が発覚した。肉体的にも精神的にもつぶれてしまう寸前だった。

京アニ事件で問題意識に変化

 このころは、社会でカスハラ対策に今ほど焦点が当たっていなかった。首都高でも、カスハラ被害で退職したり心身を病んだ事例は一件もなかった。

 だが、同年7月、36人が死亡した「京都アニメーション放火殺人事件」が発生。容疑者がネット掲示板に犯行予告のような書き込みをしていたことが報じられた。

 この男性も「今から首都高に行ってやる」という趣旨の脅迫的な発言を複数回していたため、組織としての対策作りが必要と判断し、動き始めた。

 弁護士や警察と相談し、男性の行為に対する被害届を提出。結果、この男性は威力業務妨害と脅迫の罪で有罪判決を受けた。

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