「もちろん意識しました。『居場所。』という僕の本のタイトルの真ん中にある“場”をとってみてください。この本にはそんなふうな仕掛けをたくさんしてるんです」
いたずらそうに笑う。実は単行本の見返し(表紙をめくった部分)の紙も、『遺書』と『松本』で使用されたものと同種のものを探し使用したという。
本書で特筆したいのが、“黒歴史”にもしっかり触れている点だ。2005年に当時の会長が亡くなったあと、外部からのTOBを経て株式も非上場となった「お家騒動」や、19年に大きな社会問題となった「闇営業問題」について紙幅を割いている。
■70歳を前にけじめを
「それぞれ、きちんと触れて残しておかないとな、という思いです。会長である僕が、何か残しておかないと、という思いがありました。それで、そうや、本に書いておけば一生、何世代か先まで残るやろうと。それらを知らない世代が『吉本って反社とズブズブやったらしいな』って思われると、死んでも死にきれませんので」
聞いていると、やはりこの本は、“居場所”であると同時に、大崎の“遺書”でもあるような気がしてきた。
「そうやと思います。70歳を前にして、いろんな騒動も含めて何かの縁というか巡り合わせというか、こういう本を出す機会ができまして、どこかでけじめをつけたほうがええのかな、という思いと結びつきました。読み返してみると、この本を通じて一番影響を受けたのは、僕自身なのかな、そう思ってます。
居場所がなくて孤独を感じるのは、やっぱりおじさんが多いようで、『面白かったです』『この春退職するんです』と共感してくれるのは、おじさんが多いんです。育児や教育のヒントにもなると思ってるので、若い女性や子どもさんたちにもぜひ読んでいただきたいですね」
そして、本書を出版した今、ますます意欲がわいているという。
「自分の役割は終わったのかなという思いもどこかであったんですけど、やっぱりそれは違うなと。『僕、小説書いたら売れますかね?』と、相談しはじめたところです(笑)」
小説の世界が、大崎の新たな“居場所”になるかもしれない。(構成・朝日新聞出版 太田サトル)
※大崎洋の崎はたつさきが正式表記。
※AERA 2023年4月24日号