
5月25日に千秋楽を迎えた大相撲の五月場所。大の里が14勝1敗で2場所連続4度目の優勝を果たし、第75代横綱に昇進を決めた。初土俵から所要13場所での横綱昇進は昭和以降で最速。日本出身の横綱は大の里の師匠である稀勢の里(現二所ノ関親方)以来、8年ぶりだ。圧倒的な強さを誇る大の里。元NHKアナウンサーとして数々の名実況を残し、70年にわたって大相撲を見続けてきた伝説の相撲ジャーナリスト・杉山邦博さん(94)も、「歴代のどの名横綱とも似ていない。まさに唯一無二」と期待を寄せる。強さの秘密はどこにあるのだろうか。
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──五月場所千秋楽、豊昇龍(横綱/12勝3敗)と大の里の結びの一番は、力が入りました
大の里は全勝優勝が期待されましたが、豊昇龍の意地が上回りましたね。でも大の里にとっては、最後に負けた方がかえって良かったと、私は思っています。2年そこそこで横綱の座をつかみとるだけでもすごいのに、「そのうえ横綱も圧倒して200点満点の全勝優勝」では、この先の楽しみがなくなりますよ(笑)。
本人の気持ちとしても、「まだまだ自分の成長度合いは七合目、八合目なんだ」という思いになれる。試練を与えられたのだと思えばいいんです。
──二人の「現在の力関係」が見える取り組みでもありました。勝敗を分けたポイントは何でしょうか
二人が十番取るとしたら、おそらく五分五分。そんな力関係だとは思いますが、千秋楽はプロの世界における経験の差が、凝縮されて出たと思います。大の里は勝ち急ぎましたね。のど輪攻めでのけぞらせて後退させて、右を差しに行った。豊昇龍もすぐに右の下手をひいて右に回り込んだ。そのときに大の里が、一呼吸、いや半呼吸置けばああいう結果にはならなかったけど、急いだために左足の運びが悪かったんですね。
大の里は往々にして勝ち急ぐ傾向がある。もちろん一気に攻めようというのは悪いことではないんですが、あの恵まれた体(192センチ、191キロ)ですから、一呼吸置けば盤石だったと思います。まあ、さすが豊昇龍だと評価した方がいい一番でした。
──五月場所を通して、大の里の相撲をどう評価しますか
目を見張るものがありました。千秋楽を除けば、あわてた相撲が一番もなかった。下がってはたいたり、いなしたりという相撲も三番ほどありましたが、立ち合いでしっかりと踏み込んで大きな体で受け止めるので、決して危なっかしいものではなかった。
自慢するようですが私は昨年の秋、地方紙のコラムで「来年の名古屋場所には、大の里は横綱になる」と断言したんです。なので今回の横綱昇進はうれしいやら、驚くやら、ですね。