
──大の里はインタビューの受け答えなどを見ていても素朴な人柄が現れていて、そこも人気の要因のように感じます
きちんと言葉を選んで、受け答えしていますよね。
実は13日目に優勝を決めたその翌日、支度部屋に会いに行ったんです。会うなり大の里から手を差し伸べて、握手しましたよ。「おめでとう」と。別れ際に「唯一無二だよ」と言ったら、ニコっとうなずいていたのが印象的だったなあ。
そのときに「2分だけ話すよ」と、あることを伝えました。師匠の二所ノ関親方(当時は前頭筆頭)は2010年、横綱白鵬の連勝記録を63で止めたんです。平幕力士としては大変な金星ですが、稀勢の里は大げさに喜ぶことはせず、淡々とした言葉や振る舞いがひじょうに立派だったこと。そしてその源流をたどれば稀勢の里の師匠だった元横綱・隆の里(鳴戸親方)、そして隆の里の師匠であり、取り組みのあとに相撲内容を問われても「見ての通りです」としか語らなかった名横綱・初代若乃花(二子山親方)に行きつくこと。
私はこれまでも大の里に「余計なことは語るなよ」ということは口を酸っぱくして言ってきたのですが、あらためて、そんな姿勢を大切にしてほしい。そんなことを伝えると、大の里は穏やかな笑みを浮かべながらじっくりと耳を傾けていました。
──来場所からは豊昇龍と東西の綱を張ることになります。豊昇龍は先輩横綱として意地を見せていけるでしょうか
彼は良い意味で意地っ張りな男です。千秋楽の結びのように彼が意地を見せたときの強さ。これは他の追随を許しません。大の里のように体の大きさがないので、相手に残されたときに強引な投げ技に行くなど粗っぽい取り口で墓穴を掘ることがあるのは気になりますが、でもそれが彼の特徴であり、魅力でもあるわけです。今後も両者の取り組みでは、四つ相撲になったとき豊昇龍が投げ技に出ることも多いでしょう。そこがカギになるでしょうね。ともかくいま、二人はお互いに「真っ先に相撲を取りたい相手」と思うくらいの存在だと思いますし、楽しみです。
場所の初日、横綱は小結と当たるのが慣例です。ということは、次の七月場所初日の豊昇龍と大の里の相手は今場所前頭6枚目で10勝を挙げた欧勝馬か、小結で12勝を挙げた若隆景か。あるいは私はまだ早いと思いますが前頭9枚目で11勝を挙げた安青錦の小結を予想する向きもあります。場所の展開を占う意味でも、両横綱の初日からは目が離せませんよ。
(聞き手・小長光哲郎)
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