伝説の相撲ジャーナリスト・杉山邦博さん(撮影:小長光哲郎)

──今回の場所中、杉山さんと何度か電話でお話しましたが、かなり早い段階で「大の里、(横綱)決まりだわ」とおっしゃっていたのが印象的でした

 私は、序盤の三日目までの相撲内容が横綱へのカギだと見ていました。しかも対戦相手は若元春(前頭1/7勝8敗)、高安(小結/6勝9敗)、阿炎(前頭2/7勝8敗)。決してラクな相手ではないし、過去、大の里が何度も苦杯をなめた力士です。そこを、彼本来の相撲を取り切った。その時点で私は「あ、もう行くな」と思いました。

──杉山さんはこれまで、数々の名横綱を見てこられました。横綱・大の里はそのうちの誰かを彷彿とさせる、そんな存在はいますか

 70年、相撲を見続けていますが、すぐには浮かびませんね。大の里のあの体と、相撲の取り口、内容。オーバーラップする力士がいません。彼自身が昇進の際に口上で述べた言葉通り、「唯一無二の力士」だと私は思います。この先、どう変わっていくか。どこまで、どう強くなっていくか、まったく読めない未知の部分が、たくさんあると思います。

 これから「大の里時代」が長く続くことは、間違いありません。三十年、五十年に一人の力士だと私は言ってきましたが、決してオーバーな表現ではないと思ってます。

──大の里に死角は見当たらないと

 気をつけてほしいのは、いまの体のバランスが素晴らしいので、これ以上は太らない方がいいということ。私は彼に「体重はもう(これ以上は)いらないよ」といつも言うんです。大の里の師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)は、「大の里はまだまだ稽古が足りない」と公言してますよね。その言いつけを守って180キロ台くらいに絞ったほうが、もっと強くなれる可能性があると私は思います。

 それともう一つ。まだ彼は24歳。周囲からおだてられたり、持ち上げられたりすることによって、ついつい天狗になりかねない状況がこれから多々、生まれると思うんです。そこで彼がどう自分を抑えて、乗り越えていけるか。私はいちばんそこが大事だと思います。彼は非常に素直で実直な男。長い時間ずっと見てきて、大丈夫だとは感じていますが。

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