
鍵をかけた会場、質素な食事
――バチカンでは、その教皇フランシスコの後任を決める「コンクラーベ」が行われました。どのような儀式なのでしょうか。
教会の言葉で「聖霊の導き」と言いますが、教皇選出は自分たちの利害を越え、現代世界のなかでカトリック教会を誰に託すべきか真摯な祈りの中で決めるプロセスです。
選挙権を持つ80歳未満の枢機卿がバチカンに集まり、システィーナ礼拝堂で投票を行います。投票総数の3分の2以上を得る者が出るまで選挙と祈りが繰り返されるのです。今回は日本人2人を含む133人の枢機卿が参加しています。
簡単に歴史を紐解くと、初期の教皇選出はローマ近郊の司教らが集まって合議し、一般信徒が承認することで決まっていたようです。ただ、教会が社会のなかで安定的な力を持つようになると、教皇を政治的・経済的に利用しようとする動きが強まりました。様々な勢力の干渉で、教皇は非常に弱い立場に置かれる時期が長く続いたのです。
その後、1179年に「枢機卿の3分の2以上」の多数決で教皇が決まるという今につながる制度の根幹が導入され、13世紀に現在のコンクラーベの原型ができました。コンクラーベの原意は「鍵をかける」というラテン語ですが、1268年に教皇クレメンス4世が死去したあと、3年近く教皇が決まらなかったことに怒った民衆が枢機卿たちを会場に鍵をかけて閉じ込め、「早く決めなければ食事を制限にする」と脅しをかけたことが由来とされています。実際に、「3日で決まらなければ食事は1皿に、5日で決まらなければパンと水と葡萄酒のみに」という「食事制限」が導入されました。今もコンクラーベ中の食事は質素だと言われていますね。
決定まで枢機卿たちを閉じ込めることで、選出の際に外部からの干渉を排除できるようになったことは大きな利点でした。その後、少しずつ改良を繰り返しながら現在に至っています。
――コンクラーベは厳格な秘密主義をとり、選挙中の様子や得票経過を知ることができません。その神秘性から様々なドラマのテーマにもなっています。
映画「教皇選挙」が話題ですね。私はまだ観ていませんが、いろいろと話を聞くとかなり丁寧に取材し、忠実に再現している部分が多いようです。
厳格な秘密主義が守られているのは、選挙後の風評や介入を避けるためでしょう。投票で当選者が決まると、枢機卿団のトップが当人に、結果を受け入れるか尋ねます。被選出者が受け入れた時点で、そこにいる枢機卿全員が新教皇となる人物に恭順を示します。新教皇はサンピエトロ大聖堂のバルコニーに出て集まった民衆に語り掛けますが、このときもまずは枢機卿団のトップが新教皇を紹介します。仮に内部で激しい対立があったとしても、全枢機卿が新教皇を支えるという形式を守っているのです。
――新教皇にはどんなことを期待しますか。
いま、カトリック教会は教会改革に積極的な「改革派」と、伝統的な価値観を大切にする「保守派」の二つのグループがあると言われています。新教皇には、二つのグループの融和がまず求められるでしょう。その上で、これは私個人の考えですが、閉ざされた教会の内部での融和ではなく、教皇フランシスコが掲げた「開かれた教会」、外部との交流を積極的に推し進めるなかでの融和を期待したいと思っています。
(AERA編集部・川口 穣)
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