カップルで相談に来るのなら

 性機能外来でも、性行為に関する夫婦間の乖離が問題となり、医師の元を訪れるケースは少なくない。前出の大川玲子医師(婦人科)は言う。

「片方はセックスが苦痛でしたくないけれど、もう一方はセックスレスが苦痛という相談は珍しいものではありません。実際、ある時期からしたくなくなる女性に、男性のほうが耐えられないとなるケースは珍しくない。またその逆もありますが、カップルで相談に来るというのは、何らかの解決の可能性があります」

セックスしないで妊娠したい

 同じく女性向けの泌尿器科や婦人科、性機能外来で日々、多くの患者と接する中村綾子医師(女性医療クリニックLUNAネクストステージ院長)も、同様の傾向を口にする。中村医師の性機能外来には、性交痛などの悩みを抱えて訪れる20〜30代が多いが、「なるべく性交渉したくない」「セックスしないで妊娠したい」という人の増加も実感しているという。

「外来には20〜80代と幅広い年代の女性患者が訪れますが、60〜70代の上の世代は“夫のために、痛くても我慢する”傾向が強い一方、20〜30代の若い層は、性交渉そのものから遠ざかっていると感じます。共働きで忙しく、夜も疲れていたりして、セックスが面倒になるなどの理由から、セックス離れが加速しているのではないでしょうか」

性交渉にこだわらない妊活

 大川医師、中村医師ともに実感しているのが、「セックスしたくない」あるいは「セックスできないが、子どもがほしい」というニーズだ。そのニーズに応える手段が、シリンジ法や不妊治療クリニックということになる。大川医師は言う。

「今はあえてセックスしなくても、子どもさえできればいいと考える夫婦も多い。実際、不妊外来ではそうした患者を一定数受け入れています。優先順位として、セックスより子ども。その最短手段として不妊外来を訪れる人も多い」

 同様の傾向は、男性不妊外来でも見られるようだ。前出の辻村晃教授(順天堂大学医学部付属浦安病院泌尿器科)は、「子どもがほしいという人は、手段を選ばないようになってきた」と、こう指摘する。

「ひと昔前までは、愛し合う二人が性交渉して、愛の結晶として子どもが生まれる、という筋書きでした。ですが、今や子どもを授かる方法論にはこだわりがない。この傾向が続けば、今後ますますセックスにこだわらない妊活が普及していくかもしれません」

(ライター・松岡かすみ)

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