
作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は身近な性被害「痴漢」について。
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先日、会社のスタッフから「相談がある」と言われた。仕事上のことかと思っていたら、「娘が痴漢にあった」という話だった。娘の傷つきが深く、親としてどのように接したらよいか、カウンセラーにかかりたいが良い人はいるか、弁護士を立てたほうがいいのか、いったい“私たち”は今どこに行き、何をしたらいいのだろうという相談だった。
彼女の娘はこの春高校を卒業した。卒業記念に友だちとディズニーランドに行く車内で、被害にあったという。途中の駅から乗り込んできた男が、何の躊躇もなく、乗り込むなり、ドア付近にいた娘のスカートの中に手を入れてきた。一緒にいた友だちは人の波に押され、遠くにいた。助けを求められず、あまりのことに声が出ず、意識が遠のきそうになった。幸い、すぐ隣にいた若い女性2人が異変に気がつき、男の手を掴み、次の駅で一緒にひきずるようにして駅員に突き出してくれたという。
ところが、そこで決着がつくわけではなかった。
やってきた男性警察官はやる気なく、「被害届、出すの? 時間かかるよ」と娘に言ったという。この日は友人と何日も前から計画していた大切な日だった。性被害にあった時点で1日が失われたようなものだが、警察に行くなどさらに憂鬱なことだ。とっさの判断で娘は「じゃぁ、いいです」と言ってその場を離れることを選んだ。
ところが数日後、娘の元に警察から電話がかかってきたという。「被害届を出してほしい」とのことだった。警察によれば、男が常習犯であることがわかったからとのことだった。そこで娘は初めて、性被害にあったことを母親(私の会社のスタッフ)に伝えた。4月から大学生になり新しい生活が始まるはずだった。それなのに、通学のための電車に乗れなくなってしまった。どうしていいかわからない。娘は泣き続けたという。