※写真はイメージです(写真/Getty Images)
この記事の写真をすべて見る

 西洋医学で病名がつかないようなこころの不調に対し、漢方では病名ではなく根本原因を探ることで治療していきます。30年超にわたり漢方診療をおこなう元慶應義塾大学教授・修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師は、「病気と健康の境目にあるような状態『未病』こそ、漢方が得意とするところ」と話します。
 メンタル不調に対して漢方という選択肢もあるということを、より多くの人に知ってもらいたいと、渡辺医師は著書『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から抜粋してお届けします。

【写真】渡辺賢治医師の新刊「メンタル漢方 体にやさしい心の治し方」はこちら

*  *  *

 漢方では、体質や病態を示す「証」に応じて治療方法を決めていきます。西洋医学的に病名がつかなくても、証は診断することができます。気分が落ち込みやすい、イライラする、モヤモヤする、やる気が出ない、不安感が強い、仕事に集中できない……、メンタルの不調には、西洋医学的に病名がつかない症状が数多くあります。

 漢方ではこうした病気と健康の境目にあるような状態を「未病」といいます。未病は、漢方の古典であり、2000年以上も前に書かれた医学書である『黄帝内経(こうていだいけい)』に出てくる言葉です。病気に移行する前にその芽を摘み、病気を未然に防ぐことを重視しています。なんとなくでも不調を自覚している時点で、漢方では治療の対象となるのです。

 精神疾患の代表であるうつ病は、西洋医学的な診断基準があり、それに当てはまれば、抗うつ薬での治療が基本となります。しかし、うつ病の人、うつ病ではない人というように、明確に2つのグループに分けられるわけではありません。うつっぽい人、自分がうつだと思い込んでいる人など、その中間にいるような人たちがたくさんいるのです。そしてそういう人たちにこそ、漢方が効果的なのです。

「プチうつ」という一時的な症状も

 最近では「プチうつ」という言葉も耳にします。うつ病と異なり、一定の時間帯にのみうつ症状が表れるのが特徴といわれています。うつ病はうつ症状が2週間以上続いていることから診断されますが、そこまではっきりした状態でなくても、断続的であったり一時的であったり、うつ症状に波があるような人も多いのではないでしょうか。
 

次のページ より多くの人が「未病」状態で存在することに