開幕4試合目、本拠地の神宮オープニングゲームとなるその試合前に、ベンチで組まれた円陣。“声出し”を任された山田が「たくさん語りたいんですけど、ちょっと長くなるんで一言にまとめました」と前置きした上でナインに伝えたのは、シンプルかつ力強い言葉だった。

「絶対勝つ!」

 この試合、ヤクルトは劣勢に立たされながらも8回裏2死満塁から8番・古賀優大の走者一掃の二塁打で同点とすると、10回には1死一、二塁から途中出場の丸山和郁が一、二塁間を破ってサヨナラ勝ち。粘り強い戦いで開幕からの連敗を3で止め、“土俵際”で踏みとどまった。

「テツさん(山田)がいることによってチームも引き締まるというか『行こう!』って感じになりますし、(円陣での)テツさんの一言でみんな同じ方向を向いて行こうよって感じになってるんで。やっぱスゴい存在だなと思いました」

 そう話したのは、この試合で今季初めて先発マスクを被り、8回に同点の二塁打を放った古賀優大である。

「一言『絶対勝つ!』って言って円陣を解散したんですけど、それが自分たちの心に響いた」とはルーキーだった2022年にセ・リーグ優勝を決める二塁打を放って以来、自身2度目のサヨナラ打で接戦に決着をつけた丸山。

 山田自身はこの日はノーヒットに終わったものの、髙津監督が「自分が上手くいかなくても、チームにいろんなものを与える存在」と言っていたように、その存在が、その言葉が、チームにとって大きなプラスになったのは間違いない。

 昨年10月3日の広島戦以来、181日ぶりに神宮の杜にこだました「山田哲人コール」も、ナインの心に火をつけた。一塁ベースコーチとして、ベンチよりも近い場所でこれを“体感”した松元ユウイチ外野守備走塁兼作戦コーチが証言する。

「山田が打席に入った時に(コールが)もうすごかったから。これはなんとかして勝たなきゃいけないって気持ちにみんななったと思いますよ」

 そこからツバメの逆襲が始まった。翌3日の同カードでは、2020年オフに一度はFA宣言をしながらも「テツトの顔が夢に出てきて」残留を決断したという小川泰弘が「マダックス」(100球未満での完封勝利)を達成。新たに中日を神宮に迎えた4日のナイターは、昨年は4戦全敗とまったく歯が立たなかった高橋宏斗を相手に終盤に追いつき、引き分けに持ち込んだ。この試合、8回に代打で高橋から四球を選んで同点劇をお膳立した山田のバットが、翌日に火を噴く。

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