日本人も「戦争特需」を喜ぶようになるのか
ここまで、欧州の話をしてきたが、賢明な読者はすでにお気づきのとおり、日本も今同じ道を歩もうとしている。欧州のウクライナは明日の台湾、明日の日本だというような言説が流布している。ロシアの横暴を見て、北朝鮮のミサイル発射のニュースを聞き、中国が危ないという自民党や米国の政治家、米軍関係者の宣伝に日々晒されたことで、戦争を望まなくとも軍備を増強した方が良いと考える国民は増えている。
トランプ大統領になり、日本を本当に守ってもらえるのかという疑問の声は自民党の中にもある。それを口実として、日本の防衛力の強化による対米依存からの脱却という声も強まっている。
さらに、自動車への追加関税を避けるための有効なカードを持たない日本政府が、唯一差し出せるカードは、武器の爆買いとアジアにおける米軍の負担の肩代わりである。もちろん、いずれも防衛費拡大につながり、現在の政府目標、GDP比2%への倍増計画の先の3%が視野に入っている。米国防総省の政策担当次官に指名されているエルブリッジ・コルビー氏はそれを打ち出しているが、日本から先に差し出すことの方が有効だと日本政府は考えるであろう。
日本では、日の丸ジェットの大失敗などで将来に不安があった三菱重工業の株が、信じられないことに暴騰している。防衛関連株は、軒並み他の銘柄を遥かに超える上昇を見せている。欧州と全く同じ現象だ。こうなると、武器製造やその下請け、防衛関連のシステムを納入するIT関連企業などを含め、かなり広い範囲で、軍拡で恩恵を受ける企業が増えていくだろう。
日本の国民が、戦争による武器産業の活況を見て手放しで喜ぶとは思えない。批判する声も出るだろう。極めて健全なことだ。しかし、昨今の風潮を見れば、そうした声は、戦争に備えるために軍拡が必要だという大きな声にかき消されてしまう可能性の方が高い。欧州を手本とするように、日本人もまた、戦争特需を喜ぶようになるのは時間の問題だ。
将来、「戦争だ!」と政府が叫んだ時、果たして、「やめろ!」という大きな声が国民の間から上がるのかどうか。
戦争を始めるのは権力者で、犠牲になるのは市民だと前述した。市民の大事な使命は、戦争を始めようとする権力者に対して、それを止めることだ。戦争は始めたら、市民にとっては、負けが確定する。
今、私たちが重大な岐路に立っていることに気づいている人がどれほどいるのか。
空襲警報が鳴る前に、最大級の警鐘を鳴らさなければならない。

