
今、世界中を大津波が襲っている。国際安全保障の大前提が崩壊しているのだ。
2022年2月、独裁国家ロシアが小国ウクライナに対して一方的に侵略を開始した。米欧諸国などが正義のためにウクライナ支援を始めた。この戦いは、明白な「善と悪の戦い」だった。少なくとも、西側諸国においては。日本でも同じだ(私自身は、このような単純な見方に賛成ではないが)。
しかし、トランプ米大統領の登場で、この「常識」は簡単に覆された。同大統領は、ウクライナに対して、安全の保証なしのまま、とにかく停戦すること及びウクライナの鉱物資源の権益の半分を米国によこせと言うかの如き要求を行った。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、これまでの常識、「ロシアが悪でウクライナが善」に則り、公然と反旗を翻したが、米国に武器支援と情報共有を止められて、なすすべなく降参した。
米国は、欧州を守る責任を放棄しようとしている。バンス米副大統領は、EUが民主主義の敵であるかのような演説を行い、英国を含めた欧州諸国は、米国を信頼することはできないと明確に悟った。
その帰結は、米国からの軍事的自立である。欧州の安全は欧州が守るという、考えてみればある意味当たり前のことが、新たな常識となった。
トランプ大統領の動きは急だったが、これに対する欧州の動きも迅速だ。EUのフォンデアライエン欧州委員長は、欧州の抜本的な防衛力強化のために約8000億ユーロ(約125兆円)の確保をめざす「再軍備計画」を発表した。
なぜ、「再」軍備なのかというと、1991年のソビエト連邦崩壊による冷戦終結を受けて、もはや、東西対立による軍拡競争の時代は終わったという認識が広がり、NATO諸国など多くの国が、兵器の生産を縮小し、軍需工場を閉鎖した歴史があるからだ。これにより軍事予算を削減し、その分を他の福祉予算などに回すことが可能になった。これは「平和の配当」として歓迎された。
ウクライナ戦争が始まると、この認識は急激に変化した。ロシアに対抗するために、ウクライナへの武器支援が急務となり、各国は、閉鎖した兵器工場の再開や軍事予算の拡大に舵を切った。ドイツのショルツ首相が2022年に「時代の転換点」と宣言して軍事費を大幅に拡大する路線に転換したのはその象徴だった。