ホワイトハウスで首脳会談に臨んだウクライナのゼレンスキー大統領とアメリカのトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

「再軍備」を進める欧州市場の株価が上昇

 そして、その路線転換をさらに決定的にしたのが、「米国の裏切り」である。米国を信用することができなくなったことにより、欧州諸国は、もはや迷うことなく、新たな道に進まざるを得なくなったのだ。

 欧州経済は停滞が続き、この先の見通しも明るくないが、それにもかかわらず、各国は軍事予算を拡大する。そのために財源が必要になるが、ドイツが憲法に定められた債務ブレーキ条項をこれから改正してまで国債を増発する構えを見せるなど、なりふり構わぬ「再軍備」戦略を実行しつつある。

 ここまでの話を聞くと、何とも嫌な、暗い気持ちになる。将来不安が高まり、国民は財布の紐を締め、景気は悪化し、マーケットも停滞ないし下落に向かいそうだ。

 しかし、意外にも、欧州市場では株価が上がった。ほんの一例だが、日本経済新聞によれば、戦車や軍用車両や弾薬などのメーカー、独ラインメタルの株価はロシアのウクライナ侵略前の21年末から24年末までに7倍強となっていたが、25年に入ってさらに9割高となる場面があった。フランスのラファール戦闘機などを製造するダッソー・アビアシオンやスウェーデンのサーブなども大きく値を上げた。

 こうなる理由は簡単だ。

 ドイツが債務ブレーキを変更してまで、国債を出して軍事予算を大盤振る舞いする。フランスも同様だ。EUでは、各国の防空システムや弾薬、無人機(ドローン)の購入を支援するため、EUレベルの大規模基金の創設案も浮上している。さらに、欧州投資銀行(EIB)による融資、民間投資の促進などを通じて防衛産業を振興することになる。

 加盟国が防衛費を増やせば、財政赤字をGDP比3%以下とするEUの財政ルールを一時的に緩和して各国の財政赤字の拡大を容認する可能性も高い。

 そもそも、ウクライナ支援を目的とした武器弾薬の製造のために、各国では兵器工場が活況を呈していた。しかし、ウクライナ戦争が終われば、その特需はなくなる。したがって、大規模な投資には踏み切りにくい。

 今回のEUや加盟各国の方針転換は、ウクライナ支援という短期的な目的ではなく、米国からの軍事面での独立という構造転換である。米国の肩代わりを実現するためには長期間を要し、現在の倍以上の軍備を維持していくだけでも、兵器への需要は長期的に高止まりすることが確実だ。兵器産業は長期的な成長産業になることが確実になった。

 市場では、こうした臆測により、昨年から武器産業の株価が上昇していたが、今や、欧州中でそうした動きが顕著になったわけだ。

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 「戦争を前提とする国づくり」