
プロ野球界でスイッチヒッターが「絶滅危惧種」になりつつある。育成選手を除くと、NPB12球団の支配化登録されているスイッチヒッターは田中和基(楽天)、植田海(阪神)、若林晃弘(日本ハム)の3人だけだ。
【写真】俊足・巧打という「スイッチヒッター」のイメージを覆したのはこの人
在京球団の打撃コーチは複雑な表情を浮かべる。
「足の速い右打者に『スイッチにしたら打席に立つチャンスが増えるし、内野安打が増える可能性があるぞ』って勧めたことがあるんですよ。実際に左で振らせたら癖がなくてきれいなスイングだったのですが、本人は右と左で他の選手の2倍練習することに気乗りしなかった。『右打者でたくさん練習したほうが効率いいので』と挑戦しませんでした。1軍で活躍しているならともかく、ファーム暮らしが続いているなら試してみる価値があると思うのですが、若い選手たちには効率が悪く映るようです」
アマチュア野球の指導者も同調する。大学野球でコーチを務めている関係者は「何人かの選手にスイッチヒッターを勧めましたが、やりませんでしたね。時間を掛けて取り組んでも成果が出ないときのリスクを考えるのでしょう。タイパ重視の時代ですから」と苦笑いを浮かべる。
3人のスイッチヒッターを並べた広島打線
一昔前はスイッチヒッターのスター選手たちがいた。草分け的存在が、巨人のV9に貢献した柴田勲だ。法政二高で甲子園優勝投手となったが、プロ入団後は野手に転向してスイッチヒッターとして活躍。盗塁王を6度獲得。通算2018安打を積み上げた。
阪急や阪神などで名三塁手として活躍した松永浩美も左右で卓越したミート能力を見せ、1904安打をマークした。
1980年代の広島では、当時の古葉竹識監督が足の速い選手をスイッチヒッターに育て上げ、高橋慶彦、正田耕三、山崎隆三と3人のスイッチヒッターを並べた機動力野球で旋風を巻き起こした。当時取材していたスポーツ紙記者は振り返る。
「3人は朝から晩までバットを振り続けていました。今の選手たちでは耐えられない練習量だと思います。多少ケガしても弱音を吐かないし、互いの存在を意識して切磋琢磨していた。3人の特徴はきっちりバットを振り切ることでした。足の速さを生かしてバットに当てにいく打撃ではなく、強い打球を打てるのでヒットゾーンが広い。相手バッテリーは厄介だったと思いますよ」