産まない選択も認めて

 夫婦ともに仕事で忙しい生活を送る中、特に「子どもがほしい」という気持ちを実感することがないまま30代後半を迎えた。二人のペースで過ごせる暮らしに満足しているのもあって、「子どもはいなくても良いかな」と思っていたという。

 しかし、昨今の少子化対策の動きを見ていると、「本当に子どもを産まなくて良いのだろうか」というモヤモヤが募るとこぼす。例えば女性が暮らす東京都は、18歳以下の子どもに対し、児童手当とは別に月額5千円を支給するなど、全国的にも突出した子育て支援策の充実ぶりで知られる。全国に先駆けて卵子凍結の助成金をスタートしたのも然り、今年からは無痛分娩(ぶんべん)にも助成する方針を打ち出し、注目を集めた。女性は言う。

「国も“異次元の少子化対策”などと力を入れて、自治体でも税金が少子化対策や子育て支援にどんどん投入される。それが悪いこととは言わないけれど、そっちばかりが手厚くなって、夫婦だけの世帯や独身世帯にとっては、肩身が狭い社会になってきているなと感じます。まるで社会から、産むことを押し付けられているような気持ちになる時もある。産まない選択も、もっと認められるような社会になってほしいと思います」

 生き方や価値観が多様化する今の時代、産む・産まない、子どもを持つ・持たないということに対し、悩んでいる人はたくさんいる。しかし、こうしたテーマはなぜか、言葉にするのがためらわれがちだ。それゆえになかなか本音が表に出づらく、相手の抱える葛藤や苦しさが見えづらい部分もある。筆者も3月21日に発売予定の新刊『-196℃の願い~卵子凍結を選んだ女性たち~』で現代女性の“卵子にまつわる選択”に迫り、こうした葛藤や思いを掘り下げた。一人でも多くの読者に届いてほしいと願うばかりだ。(フリーランス記者・松岡かすみ)

AERA 2025年3月10日号より抜粋

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼