
女性たちの間で関心が高まっている生殖医療の“凍結保存”。将来に妊娠・出産の可能性を残せる一方、新たな葛藤も生まれている。AERA 2025年3月10日号より。



* * *
不妊治療の広がりによって増えている受精卵凍結にも、葛藤が垣間見える。現在、体外受精の過程では、複数の受精卵を作って凍結保存する受精卵凍結が普及している。受精卵凍結は主に、パートナーが決まっている不妊治療の中で行われるもので、将来的に出産を望む夫婦あるいは事実婚のカップルが、加齢などによる生殖機能の衰えに備え、先に受精卵を作って凍結しておくものだ。卵子凍結は受精「前」に凍結するのに対し、受精卵凍結は精子と卵子を受精「後」、細胞分裂を繰り返して子宮に移植できる「胚」という状態になったものを凍結する。
受精卵は我が子と同じ
この受精卵凍結の普及とともに広がる葛藤が、「凍結した受精卵をいつまで保存するのか」。凍結受精卵の保管延長は、原則的に、女性が閉経するまで認められている。受精卵は、母体に移植したら、そのまま我が子として育つかもしれないだけに、愛着もひとしおな存在になりがちだ。筆者も取材の中で、「受精卵の“お迎え”に行く」「大事な大事なタマゴちゃんが待ってるから」と、受精卵について愛情たっぷりに話す女性たちの姿を見てきた。「受精卵を捨てるなんて、我が子を殺すのと同じ」と語った人もいる。
それゆえに、年齢を重ねて「今から受精卵を子宮に戻して妊娠・出産することは現実的じゃなくても、どうしても捨てられない」という声も少なくない。2人目を望んで不妊治療をしていたある女性は、45歳を超えても諦めきれず、凍結受精卵を保管し続けていた。その後、47歳で子宮の病気が見つかったのを機に、「これでやっと、保管し続けている受精卵から解放されると思った」と打ち明ける。
ルール不在の中の進歩
何十年も状態を変えずに保存し続けられる技術というのは、裏を返せば、“産むか、産まないか”という葛藤が長引くのと同義とも言える。「50歳まで凍結卵子を保管し続けられる環境がある=50歳まで産むかどうか悩むことと同じ」という声もあった。こうした動きを鑑みると、技術の普及とともに、“(凍結している受精卵や卵子を)手放すための支援”も、今後必要になってくるように思える。