たとえば大家族がいて、夫や自分の両親の介護や子育てに追われていたら、今自分にとって最も楽しい時間、たとえば趣味のピアノに思う存分打ち込む時間というのはかなりの確率で失われていると思います。仕事が生きがいと思えるような大層なキャリアであったら、仕事以外の時間を有意義に使える余裕はないかもしれません。
小さい頃、英国で暮らしていた時期があるのですが、英国で当時労働者階級と呼ばれていた人々に憧れたのは、彼らは仕事を力の四割くらいで適当にこなし、余暇をいかに文化的で充実したものにするか、ということに注力しているように見えたからです。ポストオフィスに勤めながらオペラを趣味にしていたり、ミルクを配達しながら週末はDJをしていたり。幼い私には、エリートで立派な家庭を作り、仕事に生きがいを持っていて家族を豊かに養っている人なんかよりも、適当にミルク配達を終えてレコード屋に入り浸る自由の方がなんとなく尊いように見えていたのです。

