骨折り損のくたびれもうけに…
筆者が状況を説明すると、上司は、一枚の小さな紙片を手に取り、A氏に見せた。
【上司】説明が至らなくて、申し訳ありません。今、こちらの源泉徴収票を確認させていただいたところ、源泉徴収税額が0円なので確定申告書を提出されたとしても還付金は0円ということになります。
【A氏】……。
上司が続ける。
【上司】それから、来年以降、源泉徴収税額に金額が発生することがありましても、先ほど、飯田(筆者)が申した通り、床面積の要件を満たしておりませんので、住宅ローン控除には該当しないということになります。長い時間、待っていただいたのに申し訳ありませんが、ご理解いただき、お引き取り願えますでしょうか。
A氏は、返す言葉を失い、机に広げた書類を鷲掴みにすると会場を出ていった。
A氏は、還付金額を確認し午後からは、家族と一緒に楽しい時間を過ごすつもりが、骨折り損のくたびれもうけになってしまった。
「居住の用に供した日」とは、いつなのか
A氏のエピソードは30年前の話だが、床面積は今も登記事項証明書で確認することになっている。床面積基準は変わらず、原則50m2以上だ。売買契約書にも床面積は記載されているだろうが、売買契約書で確認すべき事項は建物の価格や取得年月日なのだ。
住宅ローン控除に添付書類が、たくさん掲げられているのは、それぞれに確認すべき事項があるからだ。
住民票では建物を取得して6カ月以内に居住の用に供しているかを確認する。住宅ローン控除は真に“住むための家”を取得することに困っている人を救済するための税額控除であり、セカンドハウスや、他に住むことができる家を持っている人には、ローンを組んでいたとしても控除を受けることがないように設計されているのだ。
「居住の用に供している」という表現。耳慣れない表現だと思われたのではないだろうか。
住宅ローン控除は、入居した年分によって要件が違ってくる。住民票が添付書類になっているので、「入居した日=住民票の異動日」と思いがちだが、「居住の用に供した日」とは、住民票の異動日ではなく実際に住んだ日を指す。