鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)
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 起業したけど無気力な夫との生活に辟易しているという48歳の女性。子供の面倒は見てくれるものの、趣味のサイトを見るばかりか、人の悪口を言うなど、仕事に対して真摯に向き合わない夫の姿を見て、号泣までしたという。そんな女性に、鴻上尚史が「夫が勘違いをしていることが一番の問題」と指摘する理由とは。

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【相談249】

 サラリーマンをやめ、起業したけど霞を食うような日常を過ごす夫とこの先一緒にやっていける自信がありません。どのように接していけばよいのか教えてほしいです(48歳 女性 そむた)

 鴻上さん、はじめまして。いつも鴻上さんの人生相談を楽しく、興味深く拝読しております。夫とこの先、添い遂げる自信が無く、鴻上さんのお考えをお聞きしたく、応募いたしました。

 私は同い年の夫と、6歳の娘、9歳の息子の4人家族です。一見、我が家は平凡で幸せそうな家庭に見えるのではないかと思いますが、娘が生まれてすぐに、夫はサラリーマンを辞め、起業して個人事業主になりました。それまで充分な貯蓄や資産を蓄えてきた訳ではなく、「俺の仕事が軌道に乗るまでは君1人の稼ぎに頼ることになると思う」と言われ、私も応援したいと思っていました。ですが、日々、起業のために100万円近くかけて用意したMac Proの前に座って趣味のサイトを見たり、好きな本を読んだり、時には居眠りをしていることもあります。

 自分から人に会いに行く訳でも無く、起業のご祝儀代わりにお仕事を依頼してくださった友人知人を陰で呼び捨てにしたり、「素人は何も分かってないくせに要求ばかりしてくる」「そんな仕事はオレの仕事じゃない」と不遜な態度です。また、子供たちの学校の先生やご近所さんに対しても、すぐに彼が気に入らない点を口にします。自分なら、この人に二度と仕事を頼まないだろうなと感じます。

 当然、そんな態度は外に滲み出ますから、起業から6年経っても仕事は月に数日稼働する程度の、報酬が安価な案件のみになっています。何度か、友人や私からももっとこうした方が上手く行くんじゃないかな?と仕事の仕方にアイデアを出してみたのですが、「皆んな頼んでもいないのに勝手に意見してきて上から目線だよな」と聞く耳を持ちません。そして、この3年ほど、家にお金を入れた事はありません。私も収入を上げるべく転職したり、スキルに繋がるような勉強をしながらフルタイムで働いていますが、残業代が出たらやっと家族が生活できて、家のローンも払える、といった状況です。仕事自体は誇りを持って楽しくやっており、仕事があるからこそ何とか理性を保てているとも思います。

 ですが、子供がまだ幼いのに一緒に過ごす時間が充分にとれず、お金と生活の不安を抱えている所に、夫の不遜で働こうとしない態度にイライラしてばかり。そんな母の姿を幼い子供たちに見せてしまいますが、子供たちはそんな私をいつも大好きと言ってくれます。本当に救われます。何とか夫にやる気になって欲しいと、私の気持ちを感情的になり過ぎないよう何日もかけて手紙にしてみたり、夫が好きなワインを買って来て話してみたりしましたが、夫の態度や仕事を得ようとしない毎日に変化はありませんでした。一度、耐えきれず、子供たちの前で感情を爆発させてしまい、号泣しながら「覇気のない、私がヘトヘトなのも、お金が足りない事も知らん顔している貴方に耐えられない」と怒鳴り散らしてしまいました。

 そこから約1年半、夫は相変わらず霞を喰うような生活をしています。夫は家のこと、子供のことはやってくれていて、私が仕事を力一杯出来ることには感謝しています。そして、夫の両親は、私のことと子供のことをいつも気にかけてくださって、夫がまともに働こうとしない事に心を痛めています。夫婦には、腹の立つ事も、多少の波風も起きるものであって、私は完璧を追い求めすぎなんでしょうか。

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