工藤公康さん
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 昭和、平成、令和のプロ野球を経験し、現役中に14度のリーグ優勝、11度の日本一に輝いて「優勝請負人」と呼ばれる工藤公康さんは、「野球の変化」は必ずしも「進化」ではないと語る。データ解析の進歩やトラックマンなどの最新技術、フライボール革命の影響により、戦術や打撃理論は変わった。しかし、それは本当に「新しい」ものなのか? 工藤さんの最新著作『数字じゃ、野球はわからない』の内容を一部抜粋・再編集して紹介する。

【写真】「数字じゃ、野球はわからない」と語る名将・工藤公康さん

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「進化」と呼べるのか?データと技術の変遷

 私は昭和、平成、令和にわたりプロ野球の選手、そして監督として野球の「変化」を体感してきた。ただ、その変化は野球の「進化」と言えるだろうか。

 たとえば、西武ライオンズに入団した1980年代と福岡ソフトバンクホークスの監督だった2020年代では、選手のパフォーマンスに関するデータの量と質が明らかに違う。昭和にはスピードガンしかなかったが、今はトラックマンやラプソードなどがある。テクノロジーの進歩によって集められるデータの種類が格段に増えた。

 野球ファンもその一端を目にしている。近年のテレビの野球中継では、球速に加え、ボールの回転数や軌道、球種別の投球割合、打者の打球スピードや打球角度、コース別打率などが表示される。

 ただし、これはあくまでも計測機械の進歩だ。それがチームの戦術や選手のプレーにどう影響しているかというのは、野球中継を見ているだけではなかなかわからないだろう。

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