元帝京大学教授(保育学)で「保育研究所」所長の村山祐一さんは、不適切保育は決して許されないが「不適切保育の根本原因は疲弊した保育現場にある」と語る。
「共働き家庭が増える中、保育のニーズが多様化しています。それに対応するため、多くの園で延長保育や土曜保育を実施していますが、保育士の数が足りません」
認可保育園は、児童福祉法に基づく省令で、保育士の配置基準が子どもの年齢ごとに定められている。例えば、保育士1人あたり0歳児は3人、3歳児は15人。しかしこれでは圧倒的に足りず、トイレや食事を急かすため、叩くなどの行為に繋がりかねない。ギリギリの人員配置では事故が起きやすく、重大事故も増えていると指摘する。
「多くの保育園で、保育士不足を補うため国の配置基準の1.6~2倍強の職員を置いています。認可保育園の運営費は、国が算出した公定価格で決められるため、保育士が増えた分、職員1人当たりの給与を下げざるを得なくなります。つまり、10人分の人件費で約20人の保育士を雇うことになります」
平均月収は26万円
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、23年の保育士の平均月収は26万4千円と、全産業の平均給与(31万8千円)を5万円あまり下回る。しかも、村山さんによれば、長時間保育のため時差出勤で全員参加の会議も困難で、土曜開所で月2~3回程度土曜出勤があり、完全週休2日制も保障されていないと言う。
「その結果、保育士の志望者はますます減って保育士不足はより深刻になり、現場は疲弊し、不適切保育はなくなりません」
不適切保育をなくすにはどうすればいいか。村山さんは「まず保育士全員が集まって話し合える時間が持てるような体制を国がつくることが重要」と語る。
「そのためには、職員の配置基準は今の倍は必要。今は週休2日の共働き世帯が増え、土曜保育の利用者は減っています。保育士が土曜日も休めるようにし、利用者がいる場合は市町村で把握し指定した園で行うようにして、そこに補助金を出すようにする。給与も、全産業平均にしなければいけません」