経済産業省の思考停止

 ヒューマノイドの発展はこれまでの想像をはるかに超えるものになっていくことだけは確かだと言って良いだろう。

 ヒューマノイドが急速に発達すれば、日本が直面する解決困難と思われる課題の多くが解決ないしそれによる困難が大きく緩和される可能性が高い。

 例えば、少子高齢化による深刻な労働力不足のことがすぐに思いつくだろう。今や飲食店や小売店、工場、建設、物流、農業などの分野では、人手が足りずに倒産したり廃業したりする例が急増しているが、ヒューマノイドがこれらの救世主になる可能性がある。地方の交通空白、限界集落などの解決にも応用できるだろう。

 もし、このように非常に広い範囲でヒューマノイドが活躍するとすれば、マスク氏が言うように、人口を超える数のヒューマノイドが必要になりそうだ。その時、完全に置いてきぼりになった日本は、米中から大量のヒューマノイドを輸入することになる。

 さらに重要なのは、単にヒューマノイドという物理的な商品を買うだけでなく、その運用管理やバージョンアップを継続的に行うためにデジタルサービスも買い続けることになるということだ。

 それを考えると、デジタル赤字はどれくらい膨らむのか。考えるだけでも恐ろしい。

 さらに、問題は、デジタル赤字にとどまらない。ヒューマノイドは軍事的にも利用される。

 日本はドローンの開発利用で中国などに敗北してしまったが、今や、小型ドローンは、ウクライナでも示されたように、戦争の勝敗を決めると言われるほどの重要な武器となっている。

 すでに四足歩行のロボットが軍事用の運搬などの用途で使われているが、ヒューマノイドが戦場で活躍を始めるのも時間の問題だ。

 こうして、ドローンでも蓄電池でも、EVと自動運転でも敗北し、生成AIでも引き離され、生成AI用半導体の調達さえままならないという日本はどうしたら良いのだろうか。

 ラピダスに5兆円を投じて半導体立国再現をという経済産業省の思考停止の産業政策に依存する日本の将来は決して楽観できないということに気づくことがまずははじめの一歩なのかもしれない。

 果たして、石破茂首相は、その危機に気づいているのか。

 一方、「政権交代!」と叫ぶ野田佳彦立憲民主党代表は、ことの重大性を理解できるのか。

 夏の参議院選挙に向けた駆け引きに明け暮れることになりそうな日本政局の困難な状況に加え、トランプ米大統領対策で忙殺されることになる日本に、こうした危機的状況を冷静に見ながら、政策の舵取りを行う役割を果たせる政治家が一人でもいるのか。

 残念ながら、自信をもって言えるのは、「とても心配な状況である」ということだけだ。

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