
日本の「ヒューマノイド市場」は悲惨な状況
一方、これから本格的な実装に入るヒューマノイドは、「人型」であるという大きな利点を有する。世界のほとんどの空間は、人間の身体の特徴・能力に合わせて作られているため、人間とほとんど同じ形状で、人間と同じかそれ以上柔軟で強力な動きができるロボットであれば、家庭を含めてほとんどの場面で、大きな設備投資を行わずに活用できる。
今や、ヒューマノイドは、二足歩行は当然のことながら、後方1回ひねり宙返りをして着地するというレベルに達し、また、AIを使うことで、人間との直接の会話をしながら作業を行うという段階に入っている。
中国では、有力新興EVメーカーのNIOがヒューマノイドを製造現場にごく一部ではあるが導入しており、ドイツのメルセデス・ベンツの工場で一部ヒューマノイドの活用が始まったとかBMWでもヒューマノイドを実際にラインに入れてテストを行ったというようなニュースが流れていて、製造現場への導入が加速していることがわかる。
トランプ米大統領の盟友となった米テスラ社CEOのイーロン・マスク氏は、ヒューマノイド「オプティマス」を2025年に2万5000ドルで販売すると発表している。しかも将来の生産台数は200億台になるだろうと発言して世界を驚かせた。200億と言えば世界の人口よりも多い。マスク氏はエヌビディアのジェンスン・ファンCEOより早く、自動運転の次の主戦場はヒューマノイドだと見抜いていたのだろう。
中国政府もヒューマノイドが、スマートフォンと同様に「破壊的」なものになると考え、25年までに「上級レベル」のヒューマノイドを大量生産するという計画を出している。
ところで、ヒューマノイド市場における日本の位置付けはどうなっているのだろうか。
一言で言うと、悲惨な状況だ。これについては、24年6月18日に配信した本コラム「政府が大金をつぎ込んでも成功しない『人型ロボット』 知られざる『デジタル赤字』がもたらす絶望的な未来」に書いたが、その時は、あまり大きな反響はなかった。
私がこの問題に初めて気づいたのは、日本が世界に誇る最高のコンピューター技術者と言われる齊藤元章氏(日本最高のスーパーコンピューター開発企業PEZY社の創業者)に昨年6月に指摘されたことによるが、その時に見た世界トップ7社のヒューマノイドを紹介する動画には、日本のメーカーは全く影も形もなかった。
その後半年ほどの間にさらにヒューマノイドは進化を遂げ、価格もマスク氏が言う2.5万ドル前後のものがすでに発売されている。もちろん、まだ完成形とは言えないが、少なくとも工場や倉庫などで一定の役割を果たすには十分なレベルに到達したようだ。