憶測を招きやすい水面下のやり取り
人的補償対象となる選手リストは非公開で、両球団以外は知りえない。どの選手がプロテクトから漏れたのかが明らかになることを避けたい意味合いが大きいだろう。だが、水面下でのやり取りは憶測を招きやすい。
大きな騒動になったのが、23年に西武からFA権を行使してソフトバンクに移籍した山川穂高の人的補償だ。日刊スポーツが「西武が人的補償として和田毅を獲得する方針を固めた」と報じたが、両球団は人的補償として甲斐野央が西武に移籍すると発表した。和田といえばソフトバンクで150勝以上をあげた大功労者で、将来の指導者候補ともいわれていた。このため、「ソフトバンクは功労者の和田をプロテクトせず、西武は人的補償に和田を求めた。だが、和田は移籍を拒否。慌てた両球団が甲斐野の移籍で話をまとめたのでは」との憶測が流れた。
両球団を取材したスポーツ紙記者は「西武、ソフトバンクの球団幹部が口を閉ざしているので真相は分からない」とした上で、こう語る。
「和田さんに批判の矛先が向けられたが、それは筋が違う。何もコメントできないし、仮にプロテクト枠から漏れていたとしたら精神的なショックは大きい。和田さんの件とは別問題で、過去にFAの人的補償でプロテクト漏れした球団のレジェンドが『移籍はできないので現役引退する』と伝えて大騒動になった時がありました。結局、金銭補償で両球団が手打ちしましたが、こうなるとプロテクトの意味がなくなるし、透明性の部分でも疑問が残ります。若手有望株の選手たちがプロテクト漏れで移籍することを防ぐため、故障を理由に育成枠にして開幕前に支配下に戻すという『抜け道』もある。現行のルールは改善の余地があると思います」
人的補償はマイナスばかりではない。伸び悩んでいる選手にとって、人的補償により新天地に移籍することで覚醒するケースがある。近藤健介の人的補償でソフトバンクから日本ハムへ移籍した田中正義は守護神となり、美馬学の人的補償でロッテから楽天に移籍した酒居知史はセットアッパーとしてブルペンに不可欠な存在になっている。
メリットもある人的補償だが、選手からの不満の声や、ルールが守られているのか当事者球団以外に不透明な部分がある状況を踏まえて、改善していく必要があるだろう。
(今川秀悟)