だが、制度には不満もあると言う。
「正直、選手の扱いが良いとは言えませんよね。もっと選手の生活を考えてほしい。FAで人的補償になる選手って自分が補償の有力候補になっているのが分かるんですよ。決まるまで待つ時間が凄く長いし、選手によってはキャンプ直前になる時もある。決まってから新居を探さなきゃいけないし、バタバタですよ」
補償対象となるFA選手の移籍が決まり、移籍先の球団から「人的補償」対象となる選手リストが示されてから、旧所属球団は40日以内に補償となる選手を決めることになっている。だが、FA選手の移籍先決定に期限はなく、年末や年越しになることもありえる。そこから40日以内といえば翌シーズンに向けたキャンプの時期に重なりかねない。この期間が長すぎる、というわけだ。ちなみに、甲斐が巨人入りを表明したのは昨年12月17日、人的補償として伊藤の移籍が発表されたのは1カ月後の今年1月16日だった。
この元「人的補償」選手はさらに続ける。
「FAした選手は3年、4年とか大型契約を結ぶけど、人的補償の選手は1年で戦力外になる時もある。移籍を拒否した場合は現役引退しか選択肢がないのもどうかなと。FAした選手が決断する時期との兼ね合いもあるんですけど、人的補償の選手を1月中旬までに選定すること、最低でも2年契約を結ぶこと、生え抜きで10年以上プレーしている選手はプロテクト枠から除外対象になるなど、新たなルールをつくってほしいです」
実績あるベテランの「プロテクト漏れ」で波紋
人的補償には「プロテクト」の問題もある。FA選手を獲得した球団は、人的補償対象の選手リストを示す際、外国人選手やドラフトで指名した新人、育成契約選手を除く支配下選手から、28人までを名簿から外し、プロテクトできる。球団フロントはこの28人の選定に頭を悩ませる。主力選手は当然だが、将来有望な若手も残したい。そうなると実績はあるものの力に陰りが見えてきたベテラン選手がプロテクトから漏れる状況が生まれる。18年には、巨人が西武と広島からFA選手を獲得した際、功績がある内海哲也(現巨人1軍投手コーチ)が西武に、長野久義(巨人)が広島に人的補償で移籍し、「内海や長野がプロテクトされていなかったのか」と大きな波紋を呼んだ。