社会的学習の影響

 嫌悪の出現は5歳前後から始まり、10歳前後で定着することが報告されている。この時期に食物や排泄物などの嫌悪学習と同じように、親の虫に対する否定的な反応が子どもの虫に対する嫌悪感の形成を促進する可能性がある。実際、動物に対して感じる嫌悪のレベルは親と子で相関している研究結果が世界で報告されているという。

 このままだと都市部を中心に、虫に対する嫌悪感が親から子へ、きょうだいや友人の間で急速に広がり、虫嫌いが世界中に蔓延する可能性も否定できない。深野さんはこう警鐘を鳴らす。

「虫に対するある程度の恐怖や嫌悪は状況によっては安全や衛生のために有用ですが、過度な虫嫌いは虫の保全に甚大な悪影響を及ぼす可能性が指摘されています」

 深野さんは社会的学習が及ぼす影響を重視し、虫嫌いの緩和策として「野外もしくは野外を感じさせる条件で虫を見る機会を増やす」「虫の知識を増やして、種類を区別できるようにする」の2点を提唱している。

「子どもの虫嫌いを緩和するだけでなく、成人の虫嫌いを緩和することも大事です。保護者や先生が子どもの前で虫に対する過剰な否定的態度を見せないようにすることが、子どもが虫嫌いになることを抑制する可能性があります」

 多摩動物公園の昆虫園などの教育施設の活用は有効だという。この週末、親子で出かけてみてはいかがだろう。(編集部・渡辺豪)

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