レース後に撮影した、古川選手(後列)と古川選手の指導教員である東大の工藤和俊教授(前列右)とのスリーショット(写真は八田教授提供)

 もう一つ、大きな注目を集めたのが、渾身の“バンザイ”だ。ボトルを渡し終えた八田教授は、徐々に遠くなる古川選手の背中を見つめ、空に向かって両のこぶしを3回突き上げた。

「無事に役目を果たせて、最後に声で激励しようと思ったら、思わず体も動いていた。目立ちたかったわけではないのに、まさかテレビに映っていたとは……」

来年も給水係にチャレンジするのか?

 レース後、古川選手は納得のいくタイムが出なかったことを悔しがっていた。だが八田教授は、「復路のエース区間を18位で走れたことは胸を張っていい」と、その健闘をたたえる。

 29歳の学生ランナーと、65歳の給水係。学生連合ならではの多様性と、誰にでも箱根に出られるチャンスがあることを世に伝えられたのは、一つの意義があったと八田教授は感じている。

 そしてなにより、二人にとって忘れられない思い出になった。

「私はこの春、定年で大学を去ります。箱根駅伝に関わった最初の年に伴走車に乗って、最後の年に給水係になれた。その機会を提供してくれた古川には感謝しています。古川も、『初めて箱根に出た東大院生』というだけでなく、『横浜でじいさんから給水を受けた古川くん』として名が残る可能性もあるわけで、お互いにとってよかったという気がします」

 再び給水係にチャレンジする可能性については、「ないですね(笑)」とのこと。来年、沿道でひときわ熱い視線をおくる白髪・長身の男性がいたら、かつての“給水おじさん”かもしれない。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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