久保:それでホーム・カミング・デーをやっているのですね。麻布紛争について、当事者たちはみんな細かなことを忘れており、都合の良いことしか覚えていないかもしれません。その中身はどうしても美化されたものになる。だから『幕間のパントマイム』のような記録が必要になります。

難問にぶつかったとき、解決法を考えるヒントになる

おおた:71年の麻布紛争は学校が生徒と取り決めていたことを校長代行が反故(ほご)にしたところから始まっています。生徒が学校という壁を破って体制(校則)を変えようとするのは、社会人の勉強にもつながります。いまブラック校則を学校が主体となって変えるケースがありますが、生徒が主体となって変えられると、学べることも大きいと思います。

星野:ブラック校則を高校生が自ら考えて変えるのはいいことですね。

おおた:麻布はブラックとは真逆で、生徒の自由にまかされる。でも、その自由も形骸化してしまうことがあります。たとえば、文化祭で多くの生徒は髪の色を変えます。これは自由というよりは同調圧力の象徴という見方もできてしまう。

久保:麻布紛争を通して、授業がどう変わったかには興味があります。

星野:常に授業を改革する意識を持つというのは重要なことです。ただ、いま、若い先生はあまり波風を立てないで、これまでのやり方を踏襲してたんたんと進めるだけという話を聞きました。

おおた:あらら、残念ですね。麻布紛争についてあとの世代はどう受け止めたらいいでしょうか。

久保:歴史としては知ってほしい。あれほど激しい時代はなかったでしょう。校長代行のような独裁的な人物が登場したとき、どうしたらいいか。これは将来、社会でさまざまな難問にぶつかったとき、どのように解決したらいいかを考えるヒントになるかと思います。麻布紛争という歴史を頭の片隅に入れておいてほしいですね。

おおた:ありがとうございました。

(取材・構成/教育ジャーナリスト・小林哲夫