SNS規制の前に「やるべきこと」
そこで、短絡的にSNSによる発信に規制を導入せよと言う声も聞こえてくる。しかし、それは極めて難しい。現に、石破茂政権は規制の導入に対してその可能性は否定しないものの、比較的抑制的な対応をとっている。
表現の自由と直結する問題だけに慎重になっているという真面目な側面もあるかもしれないが、下手に手をつければ、SNSユーザーを敵に回すことになるため、来年夏の参議院選を控えて、動くに動けないという面の方が強いのかもしれない。
兵庫県知事選や名古屋市長選では、選挙期間中もSNS上でさまざまなデマが流された。新聞を読まない人の方がはるかに多くなり、テレビよりもネットの影響力の方が大きくなっていると言われる中では、いくら表現の自由があると言っても、これを野放しにしておくわけにはいかないと考える人は多いだろう。
しかし、冷静に考えれば、今回のような選挙期間中の偽情報の拡散行為については、一般論としてではあるが、公職選挙法違反になる可能性があると村上誠一郎総務相は国会で答弁している。それ以外にも、名誉毀損や偽計業務妨害などの刑事犯罪になることもある。つまり、最終的には司法の裁きを受けるわけで、決して野放しにされているわけではない。これまで想定されていなかった事態だったために野放しのように見えるが、今後事後的にこれらの行為が立件されていけば、それが抑止力となる可能性はある。
今回は、民主主義を守るためと称してSNS規制に走る前に、もっとやるべきことがあるという話をしてみたい。
それは、冒頭で紹介した発言にも表れたテレビ局の選挙報道の問題だ。SNSのデマがこれほどまでに蔓延した原因の一つに、選挙期間中のテレビ局の過剰な報道規制がある。
選挙が始まると、あるいはその少し前から、テレビ局が、政治報道を極端に減らすという問題は広く指摘されてきた。特に、候補者や政党の政策に関して、何らかの「評価を加えた情報」を報じることはほぼ皆無となるのが現状だ。それによって、個別候補の主張のファクトチェックなどを行うことが完全に放棄されている。
今回は、まさにその隙間をSNSの情報が埋める形で、フェイクニュースが拡散した。しかも、テレビ局の沈黙に対して、実はテレビ局が事実を隠しているという方向で有権者の不信が高まり、大手マスコミ全体への不信感が爆発してしまったように見える。
パワハラが全くのでっち上げだったという言説を信じてしまった人も多くいたが、出口調査や街頭インタビューなどを見ると、斎藤氏に投票した人の中には、真実はわからないという冷静な判断をしていた人もいた。しかし、マスコミのパワハラ報道が一方的でまるでキャンセルカルチャーの先導役のような役割を果たしていたことに対する不信感あるいは反発を感じる人は多く、よくわからないが、今回は斎藤氏を応援した方が良いのではという判断に傾いた人が一定程度いたことは確実だろう。