古賀茂明氏
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「私が責任を取る。君たちは守るから安心してやってくれ」

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 あるテレビ局の報道局長が、ニュース番組や情報番組のプロデューサーなど主要スタッフを集めた会議で語った言葉だ。

「各候補者についての映像を秒単位で同じ尺(長さ)にしろとかいう馬鹿馬鹿しい自主規制はやめた方がいいんじゃないですか」

 というスタッフの声に、

「君たちは、過剰な自主規制をやめて、報道すべきだと信じたことをそのまま流してくれていい。選挙の時も同じだ」と局長が発言すると、別のスタッフから、

「政権からクレームが入ったり、ネットで炎上したりしたらどうするんですか。我々が責任を取らされて終わるんじゃないですか」

 と不信の声が上がった。これに対して冒頭の発言が飛び出したそうだ。

 このエピソードが示す通り、テレビ局が揺れている。報道機関としての存在意義が問われているからだ。国民の多くが、テレビ局は視聴率優先で、しかも政権や既成の政党などに忖度して、本当のことを伝えていないのではないかと疑っている。

 その不信を明確に表わす象徴的な現象が、兵庫県知事選挙での斎藤元彦知事の再選劇だ。

 パワハラ疑惑などのスキャンダルで失職に追い込まれ、出直し選挙に臨んだ斎藤氏は、当初は孤立無縁で落選確実のレッテルを貼られた。しかし、その後SNS上で同氏を支援する巨大な波が生まれ、劇的な逆転勝利を果たし、世間を驚かせた。その間、SNS上では、事実に反するデマや誹謗中傷が拡散し、脅迫まがいの行為を撮影した映像が流れるなど、「無法地帯」と言って良い状況が続いた。斎藤氏に投票したかなり多くの人が、これらのSNS上の情報を参考にしたと報じられ、SNSが政治を動かす大きな影響力を持つことが非常に明確に認識されることになった。

 その後行われた名古屋市長選挙でも、やはりSNS上に流れた事実に反する情報が選挙の結果に影響を与えた可能性があると言われている。

 この夏の東京都知事選挙で、立憲民主党などが支援した蓮舫前参議院議員を超える得票を集めて小池百合子都知事に次ぐ次点となった石丸伸二氏の選挙戦もまたSNSの影響力の大きさを見せつけたことは記憶に新しい。

 これらの現象の背景を思い切って抽象化してみると、SNSの普及で世の中の情報伝達の仕組みとスピードが根本的に変わってしまったということがまず前提にあり、その上に、既存政党と既存大手メディアに対する不信が社会に広がったことにより、これまでの常識とは全く異なる大きなうねりが生まれる土壌ができていたということになるのではないか。

 そして、その構造変化はさらに加速する可能性が高い。

 これは、既成の政党にとっては深刻な事態だ。単にSNSをもっと本格的に選挙に活用すれば良いということでは対応できない、なぜなら、根底に既存政党不信があるからだ。

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総務相は公職選挙法違反の可能性に言及