いしわたりさんはこれまで、「愛をこめて花束を」(Superfly)、「世界は君に笑いかけている」(Little Glee Monster)、「ツキヨミ」(King & Prince)など数多くのヒット曲を手がけてきた(撮影/小財 美香子)

「テレビの言葉」に興味がある

――明石家さんまさん、千鳥の大悟さん、小藪千豊さんなど、バラエティ番組のなかで発せられたタレントや芸人の言葉もかなりピックアップされています。いしわたりさんは以前から「テレビの言葉に興味がある」と話してますよね。

 僕は青森出身なんですが、本当に娯楽がなかったんですよ。なので実家はずっとテレビがついてたんです。テレビというメディアについてはいろいろな議論があると思いますけど、都会から田舎まで同じ温度で届けられるのはやっぱりテレビだし、今も昔も時代を映しているハコじゃないかなと。都会との差を埋めてくれていたテレビに思い入れがあるし、今もなんとなくテレビやTVerをつけてザッピングしてますね。つまらなくてもいいんですよ。「なんでつまらないんだろう?」と考えながら観るだけで、面白くなるので。

――そのなかで気になった言葉が、コラムの題材や歌詞のテーマにつながると。

 そうですね。ただ、僕は「音楽をやるために、歌詞を書くために生きている」みたいな実感はほとんどなくて。「普通に暮らしているなかに、音楽を作る時間もある」くらいの気持ちで生活しているんです。時代に左右されることなく、自分の表現さえあればいいという考え方もあるでしょうけど、僕はそれだとあまり面白くなくて。時代を生きていくなかで感じること、流行の移り変わりのなかで自分をチューニングしながら暮らしていたいというか。自分から何が出てくるかはわからないけど、それを面白がれたらいいなと思っています。

朝日新聞デジタルマガジン「&」で「いしわたり淳治のWORD HUNT」を連載中。歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評している(撮影/小財 美香子)

――本の“CHAPTER2”は「時代とともに移り変わる表現」として、新しい言葉の使い方、使われなくなった表現を取り上げたエッセイがまとめられています。

 まったく新しい言葉も面白いんですが、それまでとは違った使い方にも興味があって。本でも書いたんですが、「粒立てる」もそう。“強調する”とか“注目する”みたいな意味なんですけど、昔はそういう言い方をしてなかったと思うんですよ。そういう言葉ってじつはけっこうあるんです。たとえば「リセットする」。この言葉のもとはおそらくファミコンのリセットボタンだと思っていて。それまでは“振出しに戻る”とか“ゼロからのスタート”と言ってたはずなのに、ファミコンの普及によって、みんなが「リセット」と言い始めて。

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言葉は感情の近似値