言葉遊びは「まったくお金がかからない、0円のエンターテインメント」だと語るいしわたり淳治さん(撮影/小財 美香子)

 今で言う「アジェンダ」くらい、格好いい言葉として当時は「リセット」を使っていたと思いますよ。言葉の世界ではそういうことがずっと続いているし、それを観察するのが好きなんですよね。

――なるほど(笑)。言葉に対する意識を高めると、毎日が楽しくなりそうです。

 “言葉遊び”という言い方があるくらいですからね。コミュニケーションツールでもあるし、みんなで遊べる道具でもあって。大人が歩み寄れば子供とも一緒に遊べるし、すごく楽しいと思いますよ。しかもまったくお金がかからない、0円のエンターテインメントですからね。

最新刊「言葉にできない想いは本当にあるのか2」では、さまざまな人の“言葉”をいしわたりさんが独自の視点で評論している(撮影/小財 美香子)

「言葉は感情の近似値」

――本のタイトルになっている「言葉にできない想いは本当にあるのか」というのも、普段から意識していることなのでしょうか?

 そうかもしれないです。“言葉にできない想い”みたいな歌詞ってよくありますけど、「本当にそうかな?」って思うんですよ。これだけ言葉があるんだから、どんな感情も言い表せるんじゃないかなって………いけそうじゃないですか? もし「これは言葉にできない」という感情があるんだったら、ぜひ紹介してほしいです。

――(笑)。歌詞や書かれたものを読んで、「こういう気持ちは自分のなかにもあるな」と気づくこともあります。

 わかります。もっと言うと、「私はあの人を愛してる」と思ってる人がいたとして、「その感情が“愛してる”だというのは、どうやって確かめたんですか?」とも思うんですよ。もしかしたらそれは“心細いから、そばにいたい”かもしれないし、単に気の迷いかもしれない(笑)。あくまでも言葉は感情の近似値ですからね。ただ、かなり近いところまではいけるはずだと思っているし、日々、それを研究しているのかもしれないですね。

――「言葉にできない想いは本当にあるのか2」には、いしわたりさんの仕事論も含まれているように思います。たとえば「考えすぎずにものすごくよく考える。それが出来て初めてプロだと思う」(「工業高校の学園祭でウケたら一人前」の章より)。

 そういうことは一行くらいしか書かないようにしているんです。いいことを書きそうになったら、やめるようにしているというか。ビジネス本だったら、「考えすぎずにものすごくよく考える~」というテーマを立てて、そこから詳細な説明が始まるじゃないですか。ケーススタディを並べたり、「こういう例外もあります」だったり。そこまでやられると冷めちゃうんですよね、僕は。さっき話した「名言を言いたくない」というのと同じです(笑)。

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