いしわたりさんは、最近再結成で話題のロックバンド、オアシスの楽曲の新対訳も手がけている(撮影/小財 美香子)

 表現はそもそも、何かしらの制限のなかで行うもの。「今から何かを作ってください。材料は何を使ってもいいですよ」と言われたら苦しくなるじゃないですか。実際はそうではなくて、たとえば絵画にしてもキャンバスがあったり、“肖像画”“風景画”みたいなテーマがあったりして、そのなかで何を描こうかを考えますよね。歌詞もそうで、制限があるほうがいいし、そのほうが答えに近づきやすいと思ってます。

オアシスの対訳について

――最後に、いしわたりさんの最近の仕事について聞かせてください。再結成したUKのロックバンド、オアシスの楽曲の新対訳を手がけていますが、日本語詞にするにあたってどんなところに意識を置いていましたか?

 なるべく一筆でやりたいと思っていたので、「私はノエル・ギャラガー(オアシスのメインソングライター)だ」と自分を追い込みながらやっていました。あとは曲によって、「ここは“俺”だな」とか「この場合の”you”は“お前”がいい」だったり、語尾のニュアンスですね。

―― ―人称や語尾でまったく印象が変わるのも、日本語の面白さですよね。

 そうなんです。今回対訳をやらせてもらって、改めて「ノエルは前向きな歌詞を書く人なんだな」と思いました。インタビューでは、よくヒネくれたことを言ったりしていましたけど、音楽のなかではすごくポジティブなんです。だけど、曲のなかでいいことを言いそうになると、最後に“知らねえけどな”みたいなひと言を付けることがあるんですよ。日本語で言うと関西弁の“知らんけど”に近いかも(笑)。たぶんノエルのヒネくれたキャラは、照れ隠しなのかもしれないですね」

(取材・文/森朋之)

2024年12月9日に「言葉にできない想いは本当にあるのか2」(朝日新聞出版)を刊行(撮影/小財 美香子)

いしわたり・じゅんじ/作詞家・音楽プロデューサー。1977年生まれ。青森県出身。1997年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビューし、バンド解散後は、作詞家・音楽プロデューサーとして、数多くのアーティストを手掛ける。著書に短編小説集『うれしい悲鳴をあげてくれ』(筑摩書房)、『言葉にできない想いは本当にあるのか』(筑摩書房)など。『うれしい悲鳴をあげてくれ』は20万部を突破している。2021年からは新ユニットである「THE BLACKBAND」を結成し、そのメンバーとしても活動中。朝日新聞デジタルマガジン「&」で「いしわたり淳治のWORD HUNT」を連載中。2024年12月9日に同連載をまとめた書籍の第二弾、「言葉にできない想いは本当にあるのか2」(朝日新聞出版)を刊行。

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼