だから、人と自分の考えが違っているな、と思ったとき「人それぞれだよね」と言って自己理解を止めるのではなく、「他人と自分はどう違うのか」にひたすらこだわってみることです。すでに世の中には概念がたくさんあります。自分の“違和感”をがんばって言葉にして調べてみたら、あなたに応えてくれる概念が見つかることも多いでしょう。それを解説してくれている記事や本を読んで、さらに進む。それでもまだ違和感が残ったとき、あなたがそこに名前をつけて、この世界に存在するものにしてあげたらいい。おそらく、こういうことをやっているとどこかで哲学を通ることになると思います。

――あらためてメルロ゠ポンティの魅力をお願いします。

 メルロ゠ポンティの本を読むことによって、日常を楽しむ手段や視点が増えたと思います。僕が哲学に夢中になった理由です。たとえばマンガを読む、テレビを見る、ゲームをするといった趣味が、哲学的な物の見方も合わせると何倍も楽しめるようになるんじゃないかと思っています。

 メルロ゠ポンティの本は、哲学的な背景への深い理解が求められるものが多いので、いきなり読むのはかなり難しいかもしれません。もし興味を持ったら、入門書などを読んでみてください。『メルロ゠ポンティ 触発する思想』(加賀野井秀一著、白水社)がおすすめです。ただ少し分厚いし値段も高いので、高校生でも入手しやすいメルロ゠ポンティの概説書をいつか書いてみたいと思っています。

(取材・構成/教育ジャーナリスト・小林哲夫

たむら・ただし/1992年生まれ。開成高校出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は現象学(メルロ=ポンティ)と知覚の哲学。現在は哲学研究を続ける一方、株式会社batonで新規事業開発に携わっている。同社が運営するメディア「QuizKnock」の動画や記事にもたびたび登場している。2024年にそれまでの哲学研究の成果をまとめた著書『問いが世界をつくりだす』(青土社)を出版。

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