田村正資さん/1992年生まれ。開成高校出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は現象学(メルロ=ポンティ)と知覚の哲学。現在は哲学研究を続ける一方、株式会社batonで新規事業開発に携わっている(撮影/小林哲夫)
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 2010年、全国高等学校クイズ選手権(高校生クイズ)で優勝した開成高校チームは当時、あまりの知識量、博学ぶりに高校生のあいだで大きな話題になった。メンバーにはのちに数々のクイズ番組に出演し「東大クイズ王」と言われた伊沢拓司さんがいる。

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 だが当時、もっとも注目を集めたのが、開成高校チームを引っ張った田村正資さんだった。さまざまな難問をクールに答える姿はクイズマニアを魅了した。街中で知らない人から声をかけられることがあったほどだ。

 田村さんはその後、東京大学理科一類に入学。教養学部を経て同大学大学院総合文化研究科博士課程に進み、フランスの哲学者、メルロ゠ポンティ(※)の現象学を学んだ。(※フランスの哲学者[1908~61年]。おもな著書に『知覚の現象学』『見えるものと見えないもの』など。“知覚は身体によって生み出されたもの”という知覚の研究を出発点として、身体そのものと世界のあり方について考察した)

 今年、田村さんは東京大に提出した博士論文をもとに『問いが世界をつくりだす』(青土社)を刊行した。高校生クイズ日本一からどうして哲学研究に取り組むようになったのか。メルロ゠ポンティの魅力とともに語ってもらった。

私たちの知覚している世界は全然客観的なものではない

――『問いが世界をつくりだす』ではメルロ゠ポンティの思想を読み解くことで、「あなたと世界」を結びつけるあり方を考察しています。具体的に教えていただけませんか。

 たとえば、ヘッドホンで大好きな曲を聴きながら歩く通学路がいつもよりドラマチックに感じたり、好きな人に肩を触れられたときに自分の全神経、全存在がそこに集中しているかのようにドキドキしたりする。このように世界はあなたのあり方に合わせてチューニング(調節)された現れ方をしています。メルロ゠ポンティは、私たちの知覚している世界が全然客観的なものではない、ということを哲学的に考察した人です。

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クイズと哲学