田村正資さんは2024年にそれまでの哲学研究の成果をまとめた著書『問いが世界をつくりだす』(青土社)を出版した(撮影/小林哲夫)

――客観的なものではないというのは、どういうことでしょう。

 あなたがウキウキしながら通った通学路が、他のクラスメートにとっては地獄に続く長い上り坂として現れているかもしれない。それでも、2人が歩いているのは同じ通学路です。そう言われると「あたりまえ」と思うでしょうが、それを「あたりまえ」と言い張るのは結構たいへんなことです。メルロ゠ポンティは哲学的にそれをやろうとした人物だと言えます。本書の『問いが世界をつくりだす』では、そのことをメルロ゠ポンティと一緒にじっくり考えています。

――たしかに存在する世界は人によって現れ方が違います。

 それは世界があなたの習慣、視点、興味や関心に合わせてチューニングされているからです。ドラマチックなのか、地獄に続く長い坂道なのか。つまり、あなたが知覚している世界は全然、客観的なものではない。たとえば、映画を見ても、一人ひとりの楽しみ方は違ってくる。じゃあ、その理由はどこにあるのかを考えてみる。それは「これはなんだろう」「どうしてこうなっているんだろう」と、あなたにとって世界がどうしてこう見えるのか、という問いかけになります。

 他方で、メルロ゠ポンティは、世界は科学的にとらえることができる客観的なものでもあることを徹底的に考察し、「世界はあなたのものではない」とも主張しています。ここを徹底的に考えるとおもしろい。

“クイズ的な経験”が著書の源流に

――田村さんは開成高校在学中、高校生クイズで伊沢拓司さんたちと3人のチームを組んで優勝しました。このときの経験はその後、哲学の研究でどのように生かされましたか。

 高校時代、クイズ研究部で「クイズを趣味としてやること」はいまよりもマイナーなことでした。部活でクイズをやっていると言うと、「ひたすら暗記するのか」「経験がともなわない知識ばかり詰め込んで頭でっかちになるんじゃないか」とよく言われました。批判的な見方もあったと記憶しています。

 僕がクイズに感じていた魅力、それがその後の哲学につながったのは間違いありません。クイズに取り組むうえで「知識」への考え方が深まった、「いまとは違う自分」の種をたくさん植えるような活動ができた、ということです。

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