官から民への転職で特徴的なのは、キャリアの棚卸しの難しさだという。民間から民間への転職であれば、営業経験がある、この業界に詳しい、といったスキルや専門性の棚卸しは職業履歴から自ずと判別できる。しかし官僚の場合、国会答弁を作ったり、国会議員に根回ししたり、法律を作ったりするスキルが民間のどの分野で生かせるのかは、本人もうまく消化できないケースが少なくないという。このため、民間で応用できる形に翻訳するのが同社の役割だ。
「霞が関で培ってきた経験やスキルをそのまま表現しても、民間企業でどう活用できるのかイメージしにくいのが現実です。業務が違うからです。したがって、経験してきた業務を民間に応用できる能力に翻訳する橋渡し役が必要なのです」(同)
例えば、法案を作り、その調整をするスキルの中には、ロジカルシンキングやリスニング、シナリオプランニング、ネゴシエーションといった要素がある。こうした能力を因数分解し、本人が民間でやりたいと思っている仕事との接点を見いだすのを手助けするという。
「私にできるのは、その人が本当にやりたいことを引き出した上で活躍できる転職先を一緒に探すことです。その積み重ねが、霞が関の新卒採用のブランド維持・向上にもつながると思っています」
霞が関を離れた人が民間でも活躍し続けることが、霞が関のブランド低下を防ぐことにつながる。そう考える吉井さん自身、再び官に戻る選択肢も排除していない。
「霞が関が自分を求めてくれるか分かりませんが、将来的には、再び官の世界に行きたいとも考えています。なので、最終的に官と民のどちらにいるのかは現時点で想定していません」
そんな立ち位置も「あり」な時代なのだ。
リボルビングドアが普及することによるメリットの一つが、官民のコミュニケーションコストが下がることだと吉井さんは言う。
「典型的なのは霞が関用語です。官と民を行き来する人材が増えることで、官僚独特の言い回しを理解して、中央省庁と建設的な対話ができる人が、民間企業に増えることにつながります。民間の側からポジティブな政策提言をしやすくなれば、社会の風通しはもっとよくなるはずです」(編集部・渡辺豪)
※AERA 2024年10月28日号より抜粋・加筆