ハルバースタムに教えをうける
ディビッド・ハルバースタムは、元ニューヨークタイムズの記者で、独立後、ケネディ政権がベトナム戦争にのめり込む過程を描いた『ベスト&ブライテスト』(1976年)や米国のメディアの興亡史『メディアの権力』(1983年)、そして日米自動車戦争を描いた『覇者の驕り』(1987年)などを著した20世紀が生んだ最高峰の作家だ。
そして、ホワイティングさんは、『覇者の驕り』の取材で日本を訪れたハルバースタムに出会い気に入られ、ハルバースタムの著者エージェントだったICMのアマンダ・“ビンキー”・アーバンを紹介される仲にまでなったのを今回私は初めて知った。
ハルバースタムは、おりにふれて印象的な言葉を残していた。
ランディ・バースが当時の吉田監督を「こんなに馬鹿な監督にはこれまで会ったことがない」と罵ったと書いたことで、ホワイティングさんが日本のスポーツ紙から「嘘つき」と攻撃された1985年のこと。バースはオンレコードのインタビューで吉田の批判をしたのだった。録音もある。そのことをハルバースタムにこぼすとこうすぐに返してきた。
「彼らこそ恥じるべきだ。彼らは自分を記者と呼ぶ資格はない。奴らがやっているのは馴れ合いジャーナリズムだ」
ハルバースタムが『覇者の驕り』を日本で取材していた際、日産は協力的ではなかった。しかし、ハルバースタムはこの本のあとがきでこう書いている。
〈このことのマイナス面は、多くの時間が浪費されたということだったが、逆にプラス面としては、この結果私は非公式の情報源をみつける努力を一段と強めたということだ〉
「今の書き手は事前に原稿を取材先に見せています」ということをある編集者から面と向かって言われて、私は唖然としていたこともあり、ハルバースタムとの思い出を語るホワイティングさんとのランチは心洗われる時間だった。
ホワイティングさんは、夕刊フジが休刊となることに心を痛めていた。18年間、週一のコラムをそこに書いていたのだ。それも年明けに終わる。
これでホワイティングさんの書いている日本語のコラムはなくなってしまうことになる。
しかし、82歳の作家には、次の本の原稿がすでに出来上がっているのだという。『新東京アウトサイダーズ』のうちの一章を使って書いている日産の事件を、グレッグ・ケリーの視点から捉えなおすという本だ。ケリーにはすでに何度もインタビューをし、あとは、来年2月の彼の控訴審の判決を入れるだけという状態になっている。
そしてこの本の出版先は少なくとも日本ではまだ決まっていないようだった。
私は読んでみたいと思う。
※AERA 2024年10月21日号