平野啓一郎さん。新潮社の屋上にて(撮影/品田裕美)

 過去の偉大な作品に感銘を受けることはもちろんありますし、それは、読み続けてもらえることを想像すると嬉しいですけど、現代人の読書の時間が増えているわけでもないし、1日24時間の中で増えるにしても限界がある中で、世界中から次々に新しい作品が発表されていますからね。その時代にふさわしいクリエーションがあるし、未来の人は、それを読むんでしょう。「何も残さずに死ぬ」ということを受け容れるのが美しいのではという思いもあります。そうすれば執着もなくなりますね。今の世の中は、レガシーだの何だのと、何かを残すことを美化しすぎていますよ。

――平野さんの今後の作品も楽しみです。短篇集『富士山』の後は、やはり長篇小説になるのでしょうか?

 今は中篇小説を準備しています。この先は自分にとって“第五期”ということになりますが、そこでどんなものを書くのか少しずつ掴めてきて。長篇の前に200~300枚くらいの中篇を書いて、その方向性を見定めたいなと思っています。分人主義という考え方をもとにして約10年やってきて、かなり手ごたえも感じています。その延長線上で考えながら、そこからさらに広がっていくテーマもありますね。『富士山』を書きながら見えてきたところもあるのですが、もう一歩かなと。

――実際に小説を書くことで、それを確かめていく。

 僕の場合は、それがいちばん着実なんですね。観念的に理論を構築した本を読むと「なるほど」と思いながらも、自分自身の実感に当てはめてみると納得できないこともある。小説の場合はもっと具体的な生活のなかで考えないといけないし、自分の感覚では、そのほうがさらに緻密な議論ができると思っています。そういう意味でも、僕には小説が向いてるんですね。

(取材・構成/森 朋之)

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