天野惠子さん(あまの・けいこ)/1967年東京大学医学部医学科卒。静風荘病院で女性外来の診療に携わる。性差医療情報ネットワーク(NPO)理事長(写真:本人提供)
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 更年期症状・障害で悩む女性は多くても、約8割が病院を受診していない。受診の目安や治療法は? 女性医療の専門家に聞いた。AERA 2024年10月7日号より。

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 ひと月ほど前、都内のカフェで本を読んでいたら、隣の席の女性2人が「更年期」の話を始めた。年の頃は、ともに40代後半ぐらいか。聞き耳を立てては悪いと思いながらも、声のトーンが高く、話が筒抜けだった。

 話の展開は、こうだ。(1)自分たちの症状が更年期なのか判別がつきにくい(2)治療法の「ホルモン補充療法(HRT)」と「漢方療法」の是非(3)医療機関を受診すべきかどうか──。

 話題にのぼっていたHRTとは、体内で不足している女性ホルモンの「エストロゲン」を補う治療法だ。更年期障害は、エストロゲンの分泌が低下した影響で生じる。

 面白いことに、私がふだん同年代の友人たちとしゃべる内容とそっくりなのだ。これは落語の三題噺(ばなし)ならぬ“更年期の三大話”だと思った。

「フェムテック」という言葉が流行語大賞にノミネートされた2021年頃から、更年期の話題が増えた。「更年期の教科書」と題するような啓発本が、書店の店頭に何冊も並ぶ。更年期の症状や医療を話題にすることのタブー感は、以前よりは薄れた印象がある。ところが、“三大話”はおおむね、受診を躊躇(ちゅうちょ)するところで終わってしまう。堂々めぐりなのだ。

 実際、受診へのハードルはあるのか。そもそも、受診が必要なものなのか。

8割が受診していない

 厚生労働省が22年に発表した「更年期症状・障害に関する意識調査」では、更年期の症状を自覚している女性のうち、「病院を受診していない」と回答した人は40代で81.7%、50代では78.9%だった。

 また9月中旬、AERAネット会員にアンケートを実施したところ、「更年期症状・障害に関して医療機関を受診しましたか」という質問に対して6割の女性が「いいえ」と回答。その理由として、「ホットフラッシュ(のぼせ、ほてりの特有の症状)なのかよくわからないため」「どの病院を受診してよいかわからなかったから」などが挙がっていた。

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まずは自分を観察することが大切