三つのゼロ!?
キャッチーな政策案が出てくる中で、三つのゼロも気になるところである。給食費、子ども医療費、出産費用のゼロも注目されている。東京大学の山口慎太郎教授は、給食費を0円にすることは確実に間違いなく子どもに使われ、児童手当よりはるかに意義があると説いている。更には、学校の給食費の徴収コストもなくなることから、多忙な職員の方々にもポジティブな効果は大きそうだ。一部の自治体では既に給食費0円が実現できており、これは実現性が高く、子どもを持つ親としても嬉しい取り組みだ。
子ども医療費0円は、親としては嬉しい半面、エコノミストとしては心配になる側面がある。というのも、実際に活用させていただいていると、その薬いる?と思うことや、親が自分の医薬品の保湿剤欲しさに受診させたり、はたまた心配しすぎて過剰受診を招いたりというのが、起きているのではないかということだ。そうした行動を抑制するインセンティブを作るためにも、最低300円は支払うのはどうだろうか。なんでも0円では、将来へのツケが心配だ。
そして、出産費用ゼロは、嬉しいことのように見えて、心配なことがある。日本を含め、多くの先進国では高齢出産が増えている。そして、産んだ後も、早々に仕事復帰が求められる環境である。そうした環境の中で、少しでも体力を温存したいということもあり、無痛分娩が増えている。しかし、無痛分娩は自由診療なので、それなりのお金はかかる。今回のゼロ円対策が出産の保険診療政策とセットならば、保険診療と自由診療が併用できない環境では、無痛分娩をすることへのコストが今以上に跳ね上がる可能性がある。想定外の女性も少なくないのではと気になっている。
解雇規制の見直し
自由化や緩和などでなく見直しということだが、気になることはいくつかある。というのも、「正社員の解雇のしやすさ」はOECD諸国ランキング(2019年)で、日本は真ん中より高い(11位/37カ国中)。そもそもそこまで解雇規制が厳しいとは言えない状況である。更には、日本がよく手本にするアメリカは、雇用の流動性が高いのとセットで労働組合の存在が強く、日本のように企業が転勤、部署異動などなんでもできるほど強力な人事権を持つメンバーシップ型雇用でなく、職種に応じたジョブ型雇用が主流である。
更に気になるのは、そもそも雇用の流動性を高めたら企業価値や企業のイノベーション力が上がり、国益になるかの明確なエビデンスが少ないということである。近年の研究では、雇用の流動性がある程度上がると企業価値向上が見られるものの、あまりに雇用の流動性が上がると企業価値損失が起き始めることが知られている。
そこで提案なのだが、アメリカのように労働者が当然のように契約書を結び、リスクとリターンを選択できるようにするのはどうだろう。ジョブ型を選択したら部署異動や転勤は望まない限りさせない、また雇用期間も流動的だが賃金は高い。一方でメンバーシップ型ならば、逆となる。雇用者と企業が対等にできる仕組みは重要だろう。